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今や風化する事も許されない肉体へと、私は瓢箪に入れていた油を注ぐ。
ビシャビシャと被る油に動く事を許されないそれは、何かを訴える様に様々な感情を織り交ぜた視線が注がれる。
恐怖、憤怒、絶望。
まぁ、多分この3つ位だろう。偶に、助けて。と、救いを求めるものが顔を覗かせるが、それに恐怖が打ち勝っているみたいで直ぐに絶望した感情が浮上する。
しかし、そんな事にいちいちリアクションをしてやる程に、今の私は穏やかなものでは無いのだ。
何せ忍としての仕事を受けた私は、只今絶賛仕事中と言う訳。
忍の仕事に感情は不要で今目の前で油を被るどこかの誰かさんとなる忍者相手に、可哀想のかけらも感じられない。
この世界は常に死と隣合わせの世界だ。
いつ死ぬか分からない世界で生きて行く覚悟があるのならば、いつ死んでも構わないと言う覚悟も必要。故に、今目の前で見開かされる2つの眼から零れる滴に、正直反吐が出そうになる。
今、こうやって油を被る中沸き立つ恐怖に涙を流す位なら、始めっからこの世界に足を突っ込まなければ良かったんじゃないかい?
死ぬ覚悟が有るから忍になったんでしょうに…。
嗚咽を出そうにも、其処には見事なまでに整った傷が掘られて居り、アイツじゃないが自身の攻撃性に酔いしれそうになる。
すると、逆さに持っていた瓢箪から落ちる勢いが消え、いつの間にか全部かけてしまったのだと少しドジを踏んだ。
しかし、もしもの場合。と、以前学園で習っていたそれを思い出した私は、懐から小さな小袋を取り出し油の上からかけてやる。
うん、これなら不自然に見られる事は無くなる。
さて、残るは……。
腰に下げている包みの中からガサガサ漁った先に見えたそれを掌に乗せれば、皮膚へと感じるじんわりとした熱にまだ使えるね。と、小さく零した。
そして、ピクリとも動かない肉体の前へとしゃがみ込めば、残った一つの眼と視線が合った。
「さて、何故君がこんなやり方をされて居るのか分からない。だろう?」
私はそう言うも相手からはこれと言ったリアクション一つも寄越してくれない。
まぁ、仕方ないよね?私がそうしたのだから。
「君はあの学園を探ろうとした。
何処の誰に依頼を受けたのが分からないのは、君が私にちゃんと白状してくれなかったせいで、君は喋る事も出来ない程の格好にされた」
瞳には更に恐怖が渦巻き出すが、今となっては本当に手遅れ過ぎる。
「まぁ、その依頼人はアイツが探し出すから私の仕事は此処で終わりな訳」
手に感じる熱が更に皮膚へとその熱さを伝えるが、残念ながら今の私にはそれに眉間を寄せる事は無い。
「君も残念だね。あの学園を嗅ぎ回っていたみたいだけどさ、「これ」だけは知らないでしょ?
あの学園を嗅ぎ回った奴への始末方法」
歪んでいく顔が可笑しくて、私はつい笑ってしまう。
「本来は教えられた通りにしなきゃいけないんだけどね、私、此処に来る前に兵糧丸を喰ってきたから、今日は避けたいんだ。
だからね?
二番目に推薦されて居る方法で、君を始末しなきゃいけない」
勿論、わかるよね?
立ち上がって頭上でそれを見せつけてやれば、白目でも見せるんじゃないかと言う位に彼は震える。
「勿論、君も忍者の端くれなら分かるよね?
苦しみながら殺される「一番」の方法」
そう言ってやった私は掌にあった火種を器事、下へと落としてみせた。
了
100822
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現42-総86