謳えない鹿2 | ナノ



 

ヒュルリヒュルリと亮目掛け飛んできた焙烙火矢。
しかし、それはただの焙烙火矢では無い。

焙烙火矢に見せかけた煙玉である。亮がこの学園に編入してくる前に、授業で作った煙玉。『何かに見せかけた飛び道具制作』と言う授業で作った代物である。
勿論それだけでは無い。
煙玉の中には嗅覚を刺激する成分が含まれており、足留め用としての役割を受け持つ。
それを逆に返されてしまったら、投げた意味が無くなると言う事。

しかも、打ち返される。と言う方法で。

2人は叫ぶしか無かった。
亮が打ち返した後に此方も同様に打ち返した所で、火が着くまでの時間帯を考えれば2人の元へやってきた瞬間にボン!である。


三味線で焙烙火矢を打ち返す。誰がこんな事を予想していた?
いや、亮だからこそ出来る柔軟な考えだからだろう。

普通ならば慌てふためいて居る所だろう。

亮が深く振り返った。






ああ、もう駄目だ。




そんな考えが2人の脳裏によぎった瞬間だった。





突如として現れた存在。
それは振りかぶった亮の背後に立ち、黒い影を生み出した。
それにいち早く気付いたのが勘右衛門、後を追うように八左ヱ門。
そして、亮の順である。

亮はハッと気付き後ろへと振り返ろうとする。
しかし、それよりもいち早く相手の方が早かった様だ。

相手は亮の後ろに立ったままその体へと両手を伸ばした。

伸ばされた両手は亮の両脇へと伸び、グイッと急にその体を持ち上げる。勿論亮の体は宙に浮き、突然の事にひゃ!と可笑しな声を上げてしまった。
僅かに浮いた足元はふらふらと不安であり、両脇だけで持ち上げられた亮の姿はどこか危なっかしい。

一体何がどうなって居るのか?
状況が未だに理解出来ない三人だったが、ジリジリとなる火種の音に現実へと引き戻される。


ヤバい!



八左ヱ門が遠くで叫んだのがわかった。
それは亮の後ろに居る人物へと届き、疑問符を浮かべながら亮の浮いた肩から顔を覗かせた。そして、瞳に映った焙烙火矢に一瞬目を丸くするも、口元に笑みを浮かべたのに誰も気付きはしない。

黒い影は亮を持ち上げたまま、体を動かした。



『ちょ!わぁ!』



突然変わった視界。
八左ヱ門と勘右衛門と焙烙火矢しか写らなかった視界は、スライドされる用に映り変わり前髪越の瞳に映ったのは広い庭。
すぐさま亮は脇へと視線を戻せば、長い鬣の様な髪の毛が視界を埋める。
同時だった。


「うりゃあ!!」




飛んできた焙烙火矢。
それを亮を持ち上げた本人が、蹴り飛ばし鈍い音がその場に響き渡った。


蹴られた焙烙火矢はガゴン!と音を鳴らし、縁側の外側。外へと勢いよく飛んで行った。
そのスピードは凄まじく、まるでただのボールを見ているかの様に焙烙火矢はキラリと輝き、姿を消したのだった。


唖然とする五年生達。
一体全体、何が起きたかなんて分からない。
否、脳が現実に追い付いていかないのだ。


すると、そんな五年生達の中へと紛れ込んで来た笑い声。
あっははは!とどこか楽しそうな笑い声に勘右衛門と八左ヱ門は、目の前にいる彼の名前を呼んだのだった。











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