謳えない鹿2 | ナノ



 

「それじゃ、郊外授業の帰りですか?」

『はい。1時間目からお昼までずっと郊外に居ました。つい先程戻って、ここで彼を弾いていたんです』



始めは亮のいた学園の話をして居たが、いつの間にか久作自身の話そしてお互いが此処に致までの経由などを話していた。

亮との会話はとても話やすく、まるで友人といるかの様な感覚になりついタメ口になりそうになる所で慌てて修正する。

そんな久作の姿に微笑みながら亮は、タメ口でも構わない。と言うも、上級生とのちゃんとした関係は壊していけないと反論。故に未だにその口調は丁寧なものだ。

しかし亮自身の口調も、丁寧なものであり下級生だと言う久作相手にもそれを直す事はしない。
端からみれば二人の会話は不思議な光景である。
しかし、当の本人がそれを気にして居ないのならば、問題はないのだろう。


「五年生の郊外授業って、どんな感じなんですか?」

ワクワクと言った眼差しを含むそれを亮は受ける。そうですね……強いて言うならば。と、紡いだ時だった。亮はふと静かに顔を上げた。その先は久作がやってきた廊下の方で、釣られる様に久作も其方を見た。しかし、これと言って可笑しい所はない。

「何かあります?」

『はい、誰かが走ってるみたいです』


誰か?
耳を澄まして遠くの音を拾う。しかし、周りは変わらずに静かであり、これと言った特徴のある音は聞こえない。だが、亮は何かを聞き取り、それが走って居るものだと判断した所は流石は五年生だと久作は抱く。
噂ではこの学園に来る前の彼は三年生。ならば上級生ならばどれほどの実力なのか?
予想が全くつかない。
すると、先程まで何も聞こえなかった筈な周りの音だったが、僅かながらも何かが走る音がやっと聞こえてきた。ああ、この音の事だったんだな。
そう思った時だった。
その足音が段々と近付いて来たのが理解出来た。お互いに顔を見合わせた亮と久作だったが、そこへと現れた第三者の介入は同時だった。




「いた!亮!」

「竹谷先輩?!」

丁度廊下の曲がり角から現れたその存在。
五年ろ組で竹谷八左ヱ門。生物委員会委員長代理で、動物の世話をしっかりと見る頼れる先輩である。

二人の前に現れた彼、八左ヱ門。彼は縁側に座る久作と亮をみるなり、声を上げた。しかも亮の名を。勿論二人が驚くのも当たり前であり、目を丸くするのも当たり前な話しだった。

八左ヱ門は座る亮を見つけるなり、いきなり声を上げた。







「久作!亮を捕まえてろ!」

「はいぃぃ?!」


いきなり上級生の台詞に驚いた久作は、つい裏返ったものが出てしまった。その間に八左ヱ門が此方へと走ってくるのだ。久作は頭が追い付かない。
どうしようどうしようと混乱する中、ふと、隣へと座る亮へと振り向けば、相変わらずニコリと笑う彼が瞳に映り込んだ。


「せせ先輩!俺!!」


どうすれば……。
本来聞くべき相手ではないだろう相手。
そんな亮が赴い口を開いた。


『良く分からないですね?能勢さん』

「はははい!亮先輩!!」

『しかし、理由分からずに追いかけられると、逃げたくなるものですよね?』

「はい?」




それだけを紡いだ亮は、いきなり立ち上がって八左ヱ門が来た廊下の反対側へと走り出してしまったのだった。


「亮先輩?!」

「待て!亮!」


久作の座る後ろの廊下を八左ヱ門が慌ただしく駆け抜けた。
しかし、既にその頃には亮の姿はなく、既に反対側の廊下の角を曲がって行った後。それを追いかける八左ヱ門の声がその場へと響き渡った。

そして瞬きをした時、八左ヱ門の後ろ姿を映していた瞳は、誰も居ないその光景を新たに映し出す。



「何なんだ?」





久作は唖然とするしか無かった。







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