謳えない鹿2 | ナノ



 

『この文面に含まれている水(フ一ト)銀と言う文字。本来ならば水銀と読むでしょうが、間にかかれているこの(フ一ト)と言う不釣り合いな文字を一つの記号と変化した場合に「一」は壱とは読まず記号の「線」と変換します。
そうなるとこれは「水線銀」と成ります。しかし此では文字の意味が有りません。
其処で両脇にある文字が示す「フ」と「ト」に近い文字。つまり水銀の水と言う漢字の間に先に述べた「線」の記号である「一」を追加すると、水が兆と言う漢字に成り代わります』

「待てよ亮、水と兆じゃ可笑しくないか?確かにフとトは理解出来たが、足した事によってなんか違和感と言うか……」



俺の隣で暗号化された文章を教えているのは薄桜色を揺らす亮君。
彼は練習問題である暗号化された文面を見るなり、直ぐに解いてしまった為か暗号文を苦手とする八に捕まった。
眉間に皺を寄せながら八にトントンに説明する様子を耳で拾いながら、俺は向かいに居る兵助を眺めれば相も変わらず勉強に励んでいる。


等々テストが明日と迫ったその日、前日である今日この日がテスト勉強最終日と成っていた。
今回のテストは難しいと聞いていた俺等と薄桜色の彼は単位を落とすまいと勉強に励んでいる。

しかし、八は勉強するのが苦手で初めこそは亮君の説明をしっかり聞いて居たが、やはり集中が途中で切れたらしく伸ばしていた背中がだらりと机へと伸びていた。
其れとは対照的に相変わらず亮君は背筋を伸ばし、まるで作法を見ているかのように座る。
時折揺れる伸びた髪の毛がフワフワと見え、きっと此処に猫が居ればあれは格好の玩具になるだろうと関係の無い事を考えて見る。

いけない。

余計な事を考えて居ないで俺も勉強をしなければ。再び兵助をちら見すれば、やっぱり黙々と筆を進めている。
すると、俺の視線に気づいたらしく、兵助がその筆を止めて此方に顔を上げた。


「(どうかした?)」


矢羽根で飛んできたその言葉に何でもない。と返せば、兵助は分からない。と言った表情を浮かばせた。
だけど、そのまま隣の亮君と八へと視線を移した所で、小さく笑ったのが見えた。


「(相変わらず八は勉強が出来ないな)」

「(そうだね、前回も勉強の仕方教えたのに早速忘れたみたいだし)」


テスト前日となるとギャーギャー騒ぎ出す友人を見かねた俺達は、仕方ないと簡単ながら勉強の仕方を教えた。
しかし、早速その方法を忘れたらしい八の姿に、俺達はため息しか出て来ない。


今回のテストが難しい。
勿論それにも理由はある。この時期に行われるテストは次に行われるテスト迄にかなりの日を明けるのだ。
本格的な夏となるその時期は常に実技、演習、実習、と言った肉体を強化し学ぶ季節に成り代わる。
その間は小さな抜き打ちテストがある位で今回の様に大きなテストは行われない。
勿論これは夏休みを挟んでも続き、秋へと成り代わる頃まで続く。

理由としては、真夏と言う暑い季節に体力作りを行い、精神力、身体能力を築く為らしい。
テストが苦手なクラスとしては嬉しい話だろうが、逆に実技を苦手とするクラスにすれば最悪の何物でもないだろう。

俺達や多分双忍の2人もこの事に関しては問題は無いだろうが、体を動かす事が好きな八にして見れば嬉しい事だろう。


『そして、先ほど細かくしたこの文法を此方に組み込むと、「北にて、4つ」となり先ほどの「兆」と言う言葉を同じ単語(読み方)を忍罠に使用される物に書き換えれば「吊」。つまり「吊し」となる罠が4つ仕掛けられていると言う事に成ります』

「じゃあ……この北と言う単語をまた分解すれば……」

『そうです。そして此方城の見取り図に当てはまる廊下に似ている廊下の中心部に仕掛けられている。と言う事になります』

亮君が説明すれば、同時に八がおお!と何やら輝いた声を発する。そして、先ほど彼が教えた方法で八は練習問題へと入れば、同時に亮君は2冊の本を開きながら視線を下ろす。
そしてどこか慣れない手付きで筆を持つ亮君の姿は、一年生を連想させる。
俺はまた兵助へと視線を戻せば、彼は亮君をジッと眺めている。

亮君に何か用でもあるのだろうか?
筆を起き兵助へと矢羽根を飛ばそうとした所で、八が再び亮君の名前を呼ぶ。
呼ばれた亮君は練習問題を聞いてくる彼に、また分かりやすい様に教える。其処で亮君を見ていた兵助の視線が外れた。
何だろう?

良く分からない彼の行動に疑問を抱いた俺だが、そこで双忍の声がしない事に気付いた。

確か彼等もこの部屋の眺めているで、共に勉強を行って居る。
雷蔵なら兎も角、勉強と言った事に飽きやすい三郎がこうも静かにして居るのは珍しい。

気になった俺は後ろで勉強してるであろう二人へと振り向いた。




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