謳えない鹿2 | ナノ



 





ああ、胸糞悪い……。











私の隣に居る生き物から上がった声を気にせず、私は空を見上げたまま微動だにしなかった。

彼(か)の生き物は痛んだ毛を揺らせば、腰に差す刀が揺らぐのが見える。



「無駄足だったじゃねぇかよ。ったくよ……報酬も無いんじゃ、元もこうも無いってのに……
ああ〜。金目の物でも貰ってくるべきだったか……」


彼の生き物は口が悪い事を私はどの生き物よりも知っている。
私より身丈も鳴き声すら小さなあれよりも、私は彼の生き物の言動、動作、仕草、それらを熟知しているつもりだ。

如何せん長生きをしている部類に含まれる私は、そんじょそこらにいる同族共よりも優れていると思っている。
彼の生き物達と今この瞬間までに共に動いていた為だろう。

しかし、私は此を苦とは思わん成んだ。

確かに共に生き抜いたこの道筋はどれも酷いものばかりで、移動中の際に遭遇する同族共からは頭が可笑しいやら戻ってこいと言われる始末よ。

されど私は向こうより此方が居心地が良い事を知っている。それにこうやって長生き出来ているのも、何より彼の生き物達から与えられる食による効果であるのも知っている。時折目の前で調合するあれらの物のおかげであろう。
お陰でそこらに茂る私の好物はだだの草と映り変わり、それらを進んで含もうなどとも考えない。

既に腹も満たされるいるのに、「異物」となった飯を誰が含もうか?
腹が空けば彼の生き物達の元へ向かう。私の姿を見れば彼の生き物達が飯をくれるので問題は無い。

以前は彼の生き物達と常日頃に共にして居たが、私の友人が姿を消えたその日からは用の無い時は一匹で森の中で過ごしている。

そんな事を思い出していると、私の体をポンと叩く存在へと意識が向けられた。


「だが、収穫は有った。早速家に戻るか」



相変わらず含んだ笑みも変わらないその生き物に、私は返事変わりに鳴いてやった。





















101012

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