謳えない鹿2 | ナノ



 

亮は失礼します。と断ってから自身の髪の毛を掴んでいた喜八郎の手をそっと退かした。
勿論喜八郎はそれに少し驚き、どうしたの?と言った様子で見上げてくる。そんな彼に亮は小さく笑みを浮かべては、タカ丸へと向き直った。



『斉藤さん、申し訳有りませんがそれはお断り致します』

「え!どうして!?」

『斉藤さんが言う傷んだ髪の毛にしてしまったのは、僕自身の手がちゃんと届かなかった。と言う不手際からです。それに斉藤さんにお手を煩わしてしまうのは、ひどく心苦しいので……』

ですから、申し訳有りません。


とだけ言った亮は、最後に綺麗な一礼し失礼します。と言い残しその場から離れて行った。
足音一つすら立てずに背を向けて歩き去って行ったその五年生は、いつの間にか2人の視界から消えて居た。

突然の事に驚いたタカ丸は唖然とするしか無かった。

だが、その隣では喜八郎が何食わぬ顔で亮が居なくなった廊下を眺め、掴んでいた筈の手のひらを頭の後ろで組んだ。




















「これで良いんですか?先輩?」









喜八郎の口からいきなり放たれたその言葉が、タカ丸の耳へと届いた。
タカ丸はへ?と目を丸くし背丈の低い喜八郎へと振り向く。
すると、そんな喜八郎が後ろへと振り向く仕草がタカ丸の瞳へと映り込んだ。タカ丸も釣られる様に後ろへと振り返った瞬間にウギャ?!と変な悲鳴を上げた。


「らっ…雷蔵君?!」

何で天井からぶら下がってるの?!

そう慌て出すタカ丸を視界に捉えた彼、天井からぶら下がるその五年生はニヤリと笑みを浮かべたのだった。


























100927

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テーマ「人外ファンタジー」
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