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「何でちゃんと拭かないの?!」
いきなり怒り出したタカ丸に亮は驚いた。え?!と口元をひきつらせた亮とは反対にタカ丸は喜八郎が持っていた長い髪の毛の束を強引に奪い、ほら!こんなに!!と亮へと見せつけたのだ。
「遠目で見た時は、動物みたいにふさふさしてるからどこか可笑しいな?って思ってたけど、今こうやってよく見たら枝毛だらけの塊じゃないか?!どうしてこうなる迄気付かずに放って置いたのさ?!」
『え?え?!』
「薄桜色の髪の色って、珍しくて初めて見て凄く綺麗だなって思ってたのに、こんなんじゃ髪の毛が可哀想だよ!!」
『ちょ……、あの……』
「フワフワしていた原因がまさか傷んでいたから。なんて……勿体なさすぎだよ亮君!」
まさかなマシンガントークの如く。亮へと説教するタカ丸の言葉は早口で、最後らへんはもはや聞き取れない。
勿論、亮はそれに困惑するばかりであり、一体どうすれば良いのかも分からない。
そんな亮の視界に映り込んだ喜八郎は、自身が掴んで居た亮の髪の毛を奪われどこか不満ながらも、もう一本伸びていた短い方を新たに掴み手の中で遊び始めた。
『えっと……僕の髪の毛、珍しいのですか?』
「珍しいよ!薄桜色だなんて!染めた様子もないみたいだし、自然な色ならばもっともっと大切に扱ってあげなきゃいけないよ!!」
自然な色。
タカ丸のその言葉にピクリと目尻が上がる。
それを隠す様に亮が続けた。
『では、ちゃんと手入れをする様にしますから……』
苦笑いながらもとりあえずタカ丸を落ち着かせようと亮が言えば、どこか興奮気味だったタカ丸の目の色が変わる。
その色の中から感じる感情からは、本当に?とどことなく疑うものだと亮は感じた。
『はい、ちゃんと手入れはしますから』
「本当に本当に?」
『ええ。湯浴み上がりに髪の毛を乾かせば良いんですよね?』
と亮は言った。
だが、それだけでは足りる訳ないでしょ!とまたタカ丸が吠えたのだ。
「ちゃんとしたシャンプーにリンス、それからワックスと色々手入れしなきゃ駄目だよ!!」
『え?!』
「亮君、シャンプーとリンスそれからワックスは持ってる?」
勿論荷物を極力少なくしてこの学園に来た亮が持ってる訳が無い。
そもそも、そんなものを使ってしまえば体臭よりもはっきりとした匂いが亮へと染み付いてしまう。
フローラルな香りを漂わせる忍たまが居るものだろうか?
まぁ、例外はあるだろうが。
故に亮は持って居ません。
と言うしかない。
ああ、きっと彼にまた怒られてしまうのだろうか?そんな考えが脳裏を過ぎた時だ。
だが目の前では亮が考えて居た事の真逆な事が起きていたのに薄桜色は驚く。
「なら、俺が亮君の髪の毛を洗ってあげるね!」
『?!!!!』
ほら、シャンプーもリンスも無いんだったら、俺が使ってる奴を貸してあげれば良いんだよ。ついでに俺が亮君の髪の毛を手入れしてあげれるし、うん、それが良いって!
うんうんと頷くタカ丸だが、一方の亮は固まる事しか出来ない。
彼は今なんと言った?
髪の毛を洗う?違う。洗って『あげる』だ。
と言う事は、それは斉藤タカ丸と言う忍たまと一緒に風呂に入らなければならないと言う事を示している。
何度も言うが亮は女だ。
どんなに男の様にそれらしく振る舞った所で、男女特有の体付を隠せる訳が無い。
そして、何より今の亮が一番に避けるべき理由もその中に含まれている事も…。
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現63-総86