謳えない鹿2 | ナノ



 

喜八郎は相変わらず亮の長い髪の毛を掴んだままで、やぁ。と何事もない様に挨拶をするのだった。
亮も亮でそれを叱る事せずに、こんにちは綾部さん。と挨拶するだけで、それを見ていたタカ丸からすれば驚くものでしかない。

一応学年で言えば亮が年上の筈なのだが……。と、其処で思い出したのが亮が飛び級する前は、三年生であったと言う事。
多分、それが未だに残って居るからか、喜八郎と亮の会話の中に亮の敬語があるのにタカ丸は気付く。

しかし、背丈で言えば三年生であった筈の亮が四年生である喜八郎より高いのは、どこか異様。
まぁ、本来六年生である筈の年齢の彼が、二つしたの四年生の制服着ている事も異様ではあるが。


「タカ丸さんが亮と話してみたいって悩んでた」

『なるほど、そうでしたか…』


クスリと僅かに笑うその様子に隠れた品があると見えてしまったタカ丸。
そんなタカ丸へと話終えた亮が振り返れば、独特のフワフワした薄桜色が靡き何故かドキリと胸が鳴る。


『僕に何か、用でも有りましたか?』


長い前髪は鼻まで伸びており、どんな目の色合いを持つのだろうと抱くそれは厚い薄桜色により閉ざされている。
故に視線が混じる事は無いだろうが、それでもなんとなく亮が自身を視界に捕らえている事は確かなのだろうとタカ丸は亮の質問に答えた。


「うん、実はね亮君の髪の毛の事で、ずっと話しかけたかったんだ」

『髪の毛?』


まさか、初対面で髪の毛の事を言われるとは思わなかった亮は、ぽかんと口を開けてしまう。
しかし、そんな亮へと助け舟を入れるかの用に、喜八郎がタカ丸の事を話ししてくれた。

タカ丸は編入生でしかも六年生と同じ年齢である事。しかし忍者としての知識経験が浅いが為に四年生から入り、1から勉強をして居ると言う事。
そんな彼はこの学園の近くにある町にあるカリスマ髪結いの息子であると言う。


『髪結い?斉藤さんは髪結い師で?』

「そう。それと辻が……」

と喜八郎が言いかけた時だった。それを塞ぐように亮の向かいに居た彼がとっさに口元を手で覆った。
勿論その手に覆われた喜八郎の言葉が亮の耳へとちゃんと届く事はなく、モガモガと濁った何かを言っている程度にしか聞こえなかった。

『辻……何ですか?』

「あは…ははは!辻じゃなくて旋毛だよ旋毛!
ほら、俺髪結いだから!ね!!」


タカ丸の額には何故か汗がにじみ出ている。
その間喜八郎はずっとモガモガと何かを言っており、この2人が一体何を言って何の行動に出ているかさっぱり分からない。

喜八郎は何か?と言わんばかりの視線でタカ丸を見上げれば、それに答える様にタカ丸が首を左右に振った様子をただただ亮は見てるしかない。
そしてどうやら2人のやりとりが終わったのか、喜八郎の口元を塞いでいた手は静かに退かれて行った。


「気にしないでね、亮君」

『は、はぁ』


良くは分からないが、これは2人の問題なのだろう。
亮は深く追求する事なく、それで……と話しを促した。


「そうそう、亮君の髪の毛の事なんだけど……、亮君、湯浴み上がりにちゃんと髪の毛拭いてる?」

『湯浴みですか……』


タカ丸に言われた後で亮は思い出す。
言わずもがな亮の性別は女である。そんな亮が忍たまが使用している湯浴みに、ゆっくり浸かる所か体や髪の毛を満足に洗い流す事など出来る筈がない。

体臭と言った匂いの面での問題は別の方法で既に解決済だ。
だが、実技や実習で受けた汚れまでは手は回らない。むしろこれらの問題は拭き取るか、水で洗い落とすしか方法が無い。
それにやはりこの学園に慣れてきた頃と言え、未だに前の学園で過ごして来た癖が抜けきって居ない。
その理由が髪の毛をちゃんと乾かしたり、いや、むしろ手をつけて居ない。と言った方が合ってるだろう。
その為か、実際の所亮の髪の毛は癖毛が強くなりアチコチ跳ねている。


『いえ、拭いては居ないです』


だから、亮はそう答えるしかない。
だが、亮の告げたその台詞により怒り出すのを本人は知らない。







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現62-総86

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