謳えない鹿2 | ナノ



 

そうして亮の仕草一つ一つを観察し考えているといつの間にか廊下の3つの別れ道となって居た。

このまままっすぐ向かえばは組の担当教師の部屋へとつく。


『では、鉢屋さん。僕はこれで……』

「ああそうだな」



此方へと振り向いた亮に私はまたな。と軽い手を振れば、薄桜色を靡かせるそいつはまた口をポカンと開けた。
だが、直ぐにそうですね。また。と言葉を零して翻して向こうへと行った。


三味線を背中に掛け結いきれない長い髪の毛が左右に揺れる。
その背中を見てどうやらあの時、私が包みを取ったらどうだ?と言った事を本当に実行してくれていたのだと改めて感じる。


亮の背中を見送り、3つの内の別れ廊下へと入った。
アイツとの会話そして仕草に動作に言動。これらには異変と言えるものは一つ所がらしきものすら感じられない。
ただそれらとは別に分かったアイツの特徴を記憶し、さて次はどうするか?なんて考えていた矢先の事だった。





『亮先輩!』





バタバタと騒がしく廊下を走る音を私の耳が拾う。音からしてそれは下級生のものだと抱いたが、聞き覚えのあるその声は二年生の川西左近のものだと理解した。
本来此処は先輩らしく、廊下を走るなと注意するべきものだろうが川西左近が呼んだ人物の名により、注意する声はピタリとやんだ。

バタバタと先ほどまで私と亮が居た廊下の前を通り過ぎた左近は、亮が向かった廊下へとまっすぐ進んだ。確かに自身の前を通り過ぎた事を確認した私は、忍び足で音を断ち切りそっと壁際へと背を預けた。


「こんにちは亮先輩」

『こんにちは。川西さん』


覗き込んで様子を伺いたい所だが、きっと今亮の立って居る位置からでは覗き込んだ私の頭を視界に入れてしまうだろう。
私はあえて視界を使わず聴覚のみで二人の会話に耳を傾けた。


「先輩、頬の切り傷は大丈夫ですか?」


頬の切り傷?
いつ亮は傷を負ったのだろうか?なんて思い出せば、意外とそれは簡単に脳裏へと浮かび上がってきた。

確か、亮の私物が盗まれた当日、は組で郊外授業を受けた際実技が苦手なは組のサポートに回った亮が、ボロボロの姿で八に引っ張られて現れた時があった。

頬に引かれる傷と言う線に本人はさほど気にはして居なかったものの、雷蔵と兵助が念の為と医務室に行くように促した事があった。

亮はしぶしぶながら医務室に向かったが、予想では有るがその時に二年生の川西左近と知り合ったに違いない。


「あれから、傷口、痛みませんか?」


そう伺う左近に多分亮は笑ったに違いない。おかげさまで後を残す事なく完治しました。触ってみますか?と亮が言えば、慌てふためく左近の雰囲気が此方まで伝わって来ていた。


「あの、他に困った事ってあったりしますか?」


左近がそう言うと先ほどまで笑っていた亮の笑い声が静かに止んでいく。
だけど左近はそれに気付いて居ないのかそのまま話を進めていた。
打撲や浅い睡眠等身体に関わる悩みがある時は構わず言って下さい。
と言った内容だったが、それに対して亮が穏やかに話を黙々と聞いているだけであり、それらと言った内容の事を掠る所か触れようとして居ない事に気づいたのは2人が別れ亮の存在がその場から消え去った半刻後の話だった。























100923

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現60-総86

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