謳えない鹿2 | ナノ



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再試験。

以前行った試験と言う名の他校である忍たまの卒業試験。相手をするも半数を占める六年生が不合格。
流石にこれはまずいと判断した先生方は、再試験を行ったのがつい先日の事。やはり、一つ下の学年である五年生が相手となれば、もはや結果は目に見えていたも同然。

結果、再試験を受けた六年生の殆どが合格。まぁ、当たり前と言えば当たり前。

しかし、中には不合格となった六年生が居るのも、また事実である。
組み合わさった五年生の相手が悪かったのか、はたまた舐めていた矢先に負けたのか?理由は色々である。

勿論その数は以前の試験に比べれば断然少ない。が、やはり落ちた事には変わりは無い。そして、この次にあるだろう追試試験!
と言う流れが有るわけでもなく、再試験に落ちた生徒は追試試験を受ける事なく単位を一つ落とす事になった。

単位を落とした六年生には重く、精神的にもぐっとくるものだった。

只でさえ六年生の試験は難しく単位の一つを落とすだけでも、卒業が危うい。故に今回の試験を落とした事は次の試験で単位を落とせば、自主退学と言われている様なもの。

それを知っていて、再試験に落ちた生徒の中には、倒れたものだっている位。

その様子を見ていたとある人物が鍛え方が足りないと、ギンギンに叫んだ。
が、
再試験を落とした事には変わりはない。


しかし、それでも彼はいつも通りだった。










と、言う訳でもないらしい。










「文次郎、その糞湿気ったらしい空気を何とかしろ」

眉間に皺を寄せた彼の背から生まれた言葉。どこか湿気ったらしい!と普段なら抗議する所だが、相手が誰であるか知っている文次郎からすれば口では勝てない人物だと知っている為に、口には出さずに。
うるさい。と、呟くだけだった。

彼は何食わぬ顔で文次郎の向かいに腰を下ろしては、手に持っていた定食を静かに置き近の醤油を掴んだ。
その様子を眺めて居れば、向かいの彼が懐から焙烙火矢をチラツかせた瞬間に手元の定食へと視線を落としたのだった。



「そんなに、再試験を落としたのが」


文次郎の同室者である彼、仙蔵の言葉にピクリと動いた箸に上手く隠す事すら出来ないのか?この馬鹿は?と、心の中で言ってやった。仙蔵の問いに文次郎は何も言わずにオカズをつまむ。しかし、摘んでは離してを繰り返し食べる様子のないその仕草に、仙蔵は見なかった事にした。
何せその仕草が恋する乙女の様だと、一瞬そう見えてしまったのが本当に気持ち悪かったからだ。勿論、コレを文次郎に告げる必要はない。
暇になった時にでも言ってやろう。



「そうじゃない」

「では、何だ?」

「……………」




オカズの一つである肉じゃがをコロコロと転がす文次郎の視線は、其処から離れようとする気配がない。
ただ、じっと見つめる様子はまるで石像。辛うじて瞬きをする瞬間が文次郎が人である証拠の様に見える。何も言わずにただ何かを考える彼。これが文次郎がよくやる仕草の一つである。
こんな時の彼にどれだけ問い詰めても、彼の中にこちらの言葉は届かない事を知っているのは同室者の仙蔵位。

また、何を考えているのやら?

その身に纏う鬱陶しい雰囲気で同室者である私の感に触る前に、さっさと解決して欲しいものだ。



そう言えばと、彼はふと思った。


ここ最近の自身の周りの友人達の様子が、どこかおかしい。

ろ組の暴君で有名な七松小平太が自身のわき腹を片手で抑え、何やらぶつぶつと呟く姿は普段の彼からして決して有り得ない光景である。勿論、小平太の同室者の長次が心配し、保健委員長である伊作に見て貰おうとするも彼もまた様子がおかしかった。

ぼんやりと遠い空を眺め口を半開きにする伊作に、留三郎が酷く慌てていた。自暴自棄になったのかも知れない!伊作が廃人になる!!等と騒ぎ立ていた記憶はまだ新しい。

一体何がアイツらに何があったのか?


何が起きたか分からない彼は、ただ見守るしかない。



そして、変な事が起きなければ良いが……。










目の前で無言になっている同室者を無視し、仙蔵は手に取っていた醤油をオカズへとかけたのだった。
















100707

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