謳えない鹿2 | ナノ



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既に朝食を終えた俺は一時間目の授業が始まる前にと一人で廊下の上を歩いていた。

用事で早朝から起きていた俺だが、案外早くも済ませてしまった為にかなりの時間が余ってしまった。
この時間帯は流石に誰も起きていないよな。
等とふらふらして行き着いたのが食堂だった。
良い香りが鼻を擽り匂いにつられて覗き込んだ所で、おばちゃんが朝の朝食を作り終えていた所に遭遇。

食堂のおばちゃんは今日は尾浜君が一番乗りね。と笑いながら定食を用意してくれたのがついさっき迄の話し。

そして他の誰よりも食事を済ませていた為に、バタバタと食堂に向かう生徒の中で反対方向である教室に行く俺の存在は少し目立って居た。

しかしそれは渡り廊下迄の話。



渡り廊下を丁度渡った所で生徒達の姿はぱったり途絶え、幅広く感じる廊下を一人で歩く俺はちょっとした優越感に浸る。

遠くの校舎から賑わうを帯びる声はきっと下級生達の物で、下級生から先生方のいる食堂内はきっとお祭り騒ぎの様に騒がしいに違いない。


ああ、俺も少し遅く食べていたらな。


出そうになる欠伸をぐっとかみ殺せば、カチリと歯がなる。そして同時に視界が沸き立つ涙で揺らぎだし、俺は手の甲でそれを静かに拭った。


今日の一時間目は一体何だったけ?

寝ぼけているのだろう頭を覚ます為に、ぼんやりと微睡む中を掻き分けるかの様に次の授業を思い出す。



『……い事を、言ってくれますね』

「(!)」


二手に別れる廊下。
そこを差し掛かった時に彼の声がした。もしかしたら聞き間違い或いは他人かも知れないと、確認の為だろうか?無意識に影となっていた廊下を覗き込めば、案の定、俺が思っていた前者の彼が居た。

初めに映り込んだのは彼の長い髪の毛で、その次に捉えたそれに俺は目を丸くした。



「(三味線?)」


いつも彼が背中に背負うそれが布に包まれていて、はっきりとした形を成していない事からそれが一体どんな代物かとは分からない。

だけど、いつも有るべき場所に三味線があると言う事は、あの包みの中はこれで間違いないだろう。
何故、今になって包みを取り外したのか?
後で理由を聞いてみよう。

すると、覗き込んだ俺に気が付いたのか彼、亮君の向かいに居た一人の生徒とバッチリ目が合ってしまう。
俺はおはよう。とにこりと挨拶すれば、何故かそこ子は眉間に皺を寄せムスリと何とも不機嫌な顔付きへと変わる。

え?え?

俺なんかした?

同時に俺に背中を向けていた彼も振り向けば、変わらずの笑みを口元に浮かべおはようございます。尾浜さん。なんて、のんびりした彼に少し安堵した。



「おはよう、亮君」

伊賀崎となんかあったのかい?俺が問えば、彼はお話を少しと言い口元を隠す様に手が当てられる。いつもに増してお淑やかだな。
と思うと同時に、亮君の向かいにいた彼から痛々しい視線が俺の肌に突き刺さる。


だからなんだってんだよ……


背中に流れる冷や汗?
俺は伊賀崎にどうした?と視線を使い意図を聞くが彼は、何も答えずにただただジトっとした視線を向けるばかりでこれと言った答えが来る事はない。

流石に気まずくなった俺は、亮君へと視線を戻した。


「亮君、朝食は食べたかい?」

『いえ、しかし今はお腹いっぱいで……』


既に何か食べてしまったのだろうか?苦笑する彼にだった教室まで一緒にいかないかい?と聞けば、更に濃厚な視線がジクジクと肌に刺さる。
しかし、亮君はそれに気が付いていないのか伊賀崎へと振り返り、でわ、伊賀崎さん。後ほど。
と言う。同時に俺に突き刺さっていた視線が嘘の様に消えては、ポカポカとした暖かな眼差しが彼へと向けられた。


「先輩、約束ですよ」

『はい』



伊賀崎は其処で一礼した後に俺がきた廊下へと歩いて行った。
すれ違い様にッチなんて、舌打ちされてしまえば俺は一気に落ち込むしかった。
ガクリと肩を落とす俺に、亮君がその高い身長を少し屈ませ俺の顔を覗き込む。



『尾浜さん、伊賀崎さんに何かしたので?』

「むしろ、俺が聞きたい」


ああ…流石の亮君も気が付いていたみたい。
俺は心あたりがないまま、とりあえず亮君と一緒に教室へと向かう事にした。



勿論、その足取りはどことなく重いものでしかなった。















100705

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