謳えない鹿2 | ナノ



 







「それで?」






同時に鳴るのはバリバリと砕かれる音。そんな音を放っている本人と言えば、横に成りながら行儀悪く煎餅を食べる僕の同室者である三郎。
あれ?以前にも彼は同じ様に煎餅を食べていた様な?と思い出そうとした所で、向かいに座る彼がズズっと鼻を啜る音を僕の耳が拾った。

ほら、汚いよ?

と、ちり紙を渡せば彼は受け取るや否や遠慮なく且つ豪快に鼻をかいだのだった。

あう。とまた情けない声を出せば、鼻が赤く色付いて居るのが分かる。
かみすぎて鼻を痛めなきゃ良いけど……。

彼は五年は組の生徒の1人で、よく亮君を気に掛ける姿を目にした事がある。
たまに教室移動などで一緒に話しながら廊下を歩く姿を、僕は教室の中から見た事もあるのだ。
ほんわかは組と言われるくらいにのんびりとして、五年生にしては異様な程にのほほんとする雰囲気を纏う事でこの学園では有名だ。

むしろ何故、五年生まで進級出来たのか分からない位で、学園内で囁かれている七不思議の一つだとも言われている。
だけど、は組の結束力は強くあの一年は組を連想させる位に連携が取れている。勿論それはは組のみのクラスメート限定であり、僕達ろ組やい組には無い特徴。

それは編入してきた亮君にも当てはまり、彼等は彼を省く事はせずその輪へと受け入れた。

しかし、どうやらそのは組に今異変が起きて居るらしい。しかも亮君絡みで。
もしかして以前に起きた私物失踪事件に近いものかも知れない。

気が付けば僕達が居る室内には重苦しい空気で満たされる。それは彼の表情からでも既に伺えれる位に重いらしく、先ほどまでのんびりと煎餅を食べていた三郎の手が止まったのが証拠だ。


「実は……」


僕達の目の前に座る彼は赤く腫れた目を閉じて、息を詰まらせるのが分かる。それに同調するかの様に僕達も共に唾を飲み込む。
重い空気に更なる重圧が加わり、襖越しに差して来る筈の日差しが遠くに感じる。

彼がこんな表情に迄追い込まれたのを僕は初めて見た。それは三郎も同じだろう。
何せ彼はいつもニコニコして笑い、クラスのムードメーカーそのもの何だ。兄貴肌なのかは組を引っ張っていく背中や、友人を笑顔で励ます姿しか見た事が無いから尚更だ。
きっと、大事なのだろう。





「実は……亮が……」

「亮君が?」













空気が再び底へ沈んだ。






















「亮が、口をきいてくれないんだよぉぉぉ!!!」






































彼は突如としてその額を部屋の床へとぶつけるなり、大声で喚きだした。その格好はまさに土下座そのものなのだが、当の本人は全く気にしてないらしくそのままわんわん泣きだす。
見事に弧を描いた大量の涙が床へと叩き付かれる様子を、僕達は唖然と見ているしか無かった。

彼は一体何を言ったのだろうか?そんな考えが脳裏をグルグルと未だに回る中、彼の言葉を何とか理解した三郎の抜けた声が先に上がる。


「阿保か?」


「何だと!?この変態名人めが!」

「誰が変態名人だ?!変装名人だ!間違えるな!それを言ったら、お前の方が変態じゃないか!亮が口をきいてくれないだと?馬鹿は休み休み言え!」



2人の言い争いで僕の思考は現実へと引き戻される。
三郎は彼に対して後輩に無視された先輩か!?お前は?!と言えば、お前なんかにわかってたまるか!変態名人が!と更に声を荒げる。
流石にこのままだとまずいと思った僕は静止に入れば、2人はフーフーと肩で息しながら睨み合う。



「三郎落ち着きなよ」

「しかし、雷蔵…」


不満そうにむくれる三郎を落ち着かせた僕は、向かいに居る彼へと向き直れば彼は気まずそうに視線が宙をさ迷う。



「まだ俺だけに口を聴いてくれないなら我慢出来るんだ。
だけど、これはは組全体に言える事なんだ」


は組全体。その台詞につまらなそうにして居た三郎がピクリと動いたのを視界の隅で僕は捉えた。
僕はどういう事?と問えば、彼は鼻を再び啜りながら言葉を紡いだ。




「俺いつもみたいに亮へと朝の挨拶したんだ。そしたら亮の奴始めジッと俺を見たと思ったらいきなり顔反らして、窓の方を眺めだしたんだ……。
初めはあれ?って思ったんだけどきっと聞こえなかったんだ。そう思って気にしなかったんだよ。
その後、座学の授業が終わっていつも通り、亮とみんなで実習に行こうとして誘ったんだ。そしたら……そしたら……亮が……」
















『申し訳有りませんが、ご一緒は遠慮します』

「え?いやでもさ、せっかく向かう先は同じ何だから………」

『遠慮します。
僕はそう言って居るんです。
意味、分かりますよね?』
















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