謳えない鹿2 | ナノ



 

「亮君はこれから勉強するんだろ?」

『まぁ、そうですね』

「だったら、一緒に勉強しないかい?」

『!!』



一緒に勉強。

そう言った途端に彼は何故かビックリした様子で、口を僅かに開いた。そして直ぐに笑みを浮かべたと思うも、直ぐにそれは消されしまう。
一瞬にしてコロコロと変わった表情(と言っても、口元でしか分からなかったけど)に一体どうしたのか?と無意識に首を傾げてしまった。



『すみません。僕はその……ちょっと………』



そう断る亮君に不信感が浮かび上がるのは当たり前で、先ほどの表情が嘘の様に彼はいつもの雰囲気を纏っている。



「もしかして、イヤだったかな?」


僕がそう言うと、彼はいえ!そうでは無く!と慌て片手を振る。片手で教材を持ち、左手がブンブンと慌ただしく目の前で振られる。その中に混じるのは牡丹色。多分、彼が手首に結んでいるあの紐だろう。


『イヤではないです!あ……そのむしろ此方からすれば嬉しいお話です。
今回のテストは僕は初めてなので、既に受けた事のある不破さんにも色々聞きたい事はあります。』

しかし………。


綴るにつれて言葉は尻込みし、最後には既に伊賀崎さん達に迄と……。と、よく分からないそれを紡いだのだ。
伊賀崎さん達?
と言う事は、彼は既に三年生達と面識を持ったて居た。と言う事だろう。だが、その語尾に『迄』は言葉としては不釣り合いだ。

僕は彼の不思議な言葉使いに思考が浸かっていた時だ。彼は途端にその口元を結ぶ。
そして失礼します。と一礼すればその場からすぐさま姿を消し去った。
風が僅かに吹いた程度でありあまりの素早さに目が追い付かず、気が付いた時には彼は居なくなって居り僕は驚いた。

だが、それと同時に後ろでビタン!!と、なんとも痛々しい音を僕の耳が拾った。



「な、なに?!」


まるで皮膚をぶつけた様なものに近い音は、神経を逆撫でし此方まで痛いと錯覚してしまう。
僕はすぐさま後ろへと振り返れば、廊下の向こう側でうつ伏せで倒れている一人の五年生が居た。
勿論僕は驚いたもののそれが亮君のクラスメートである、あのムードメーカーの彼自身だと分かった途端に急いで駆け寄った。



「ちょっ……どうしたんだい!?」



もしかして移動中にお腹でも壊したのだろうか?それとも、演習で受けた古傷が開いたのか?
落ち着け。そう自身に言い聞かせた僕は倒れる彼の肩へと触れた。
するとその肩がカタカタと震えているのが分かる。

何故?そんな疑問が浮かび上がったと同時に、彼の顔辺りが水で濡れて居るのが分かる。

ん?水?


そして、嗚咽混じりに亮君の名前を情け無く呼び、グズングズンと鼻を啜る音に僕は更に困惑するしか無かった。

























100907

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現51-総86

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