謳えない鹿2 | ナノ



 

亮の名を呼んだ彼女は廊下の上からそのまま庭先へと降りる。
砂利を踏みしめながら亮の近くへと行けば、側にいた左門が真っ青になり三之助は訳分からず。と言った様子で眺めていた。
しかし、そんな2人を気にせず、亮の目の前までやって来た彼女は、何故か顔を真っ赤にしながら両手を握り締めている。
視線はあやふやで亮を見たと思えば、明後日の方角へとさまよわせまた亮を見る。の繰り返しを行っている。



「亮君、ああ、あの!…あの時の物、ちゃんと受け取ってくれた!よね?」

あの時の物?
忍たま三年生達からすれば、彼女が何の事に関して言って居るのかが分からない。
しかし、そんなくのたまを見守る彼女達の様子からは、何か知っているのだと推測される。


『えっと、以前、深夜に頂いたあの包み。ですよね?』

「うん、五年生が課題実習を遣った日の前日に渡したあれ」

『ええ、ちゃんと中身も大切に頂きましたよ』


亮がそう言えば、彼女はあ、ありがとう!とはにかんだ様に笑みをこぼす。
しかし、亮へと視線を合わせる為に顔を上げれば、またもや顔を真っ赤に染め上げては塞ぎ込んだ。



「それでね……その………あれ、読んでくれ…た?」



読んだ?
つまりその包みとやらの中に紙が入っていたのだろう。
彼女はそんな事を何故気にするのだ?と疑問を抱く三年だが、相手のくのたまの様子を見ていた孫兵は理解したらしく、静かに目を細めた。
以前、自身と約束した内容。そして、彼女の読んだ?の一言に感の鋭い彼の中で全てが一致した。

そして、悪いとわかっていても、孫兵はそのまま亮へと話しかけたのだった。



「先輩、図書室から本は借りれましたか?」


その場面には不釣り合いな話しを持ちかけた孫兵に、亮自身も向かいに居る彼女もそしてそれら一部始終を見ていた三年生達が驚いた。
しかし、亮ははい、ありますよ。と、懐から取り出した本により目の前に居た彼女はえ?と声を零した。


「文字読み書きドリル?」


亮が取り出した本。そのタイトルをすぐ近くにいた三之助が声に出して読んだ。
作兵衛、数馬、藤内は何故五年生の彼が?とさらに分からなくなり頭を傾げるが、2人を見守っていたくのたま達は何を言っているのだと顔をしかめて居る。

「……亮君……、それって、図書室の……」

「何で、そんな物借りて来たんスか?」


疑問の中に新たな疑問。全く答えが見当たらない中へと、亮が笑みを浮かべて答えたのだった。


『今日は伊賀崎と文字の読み書きの練習をする。と言う約束をしていたので』



だから、何故五年生の彼が?
文字なんて一年生から忍者学校に通っている生徒ならば嫌でも読み上げる事ができる。
しかも、彼が持って居るそれは、明らかに低学年向けのものである。

脳が現状に全く追い付かない。
そんな場に居る皆へと、孫兵が仕方ない。とまたため息を付いたのだった。


















「亮先輩、文字を上手く読めないんだよ」






















静粛。
されど、後を追うように上がったのは、その場に居合わせた三年生達の驚愕した声だった。



















100831

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