謳えない鹿2 | ナノ



 














『すみません、ちょっとタンマ。です』















「「「「は?」」」」








この場には不釣り合いな言葉が頭上から聞こえた。

同時に左門と三之助は疑問の声を上げたと同時だった。

2人の視界は瞬く間に移り変わり、また気が付いた時には屋根の上では無く長屋の庭先へと移り変わっていた。

始めそこがどの学年の長屋なのか分からなかった2人だが、三年もこの学園で生活して居れば自身の長屋だと嫌でも理解できた。
そして、その長屋がろ組の長屋では無く、い組の長屋なのだと分かったのは2人同時。



「やっぱり、亮先輩でしたか」




左門と三之助の後ろから上がる声。
いまだに亮へと抱えられていた2人はそのままの体制であり、名を呼ばれた本人が後ろへと振り返れば2人の瞳に人物の姿が映るのは必然的な事だった。

首だけでは無く体と共に振り向いた亮へと駆け寄ってきたのは、生物委員であり毒虫野郎と言われている彼、伊賀崎孫兵。

彼は亮へと駆け寄って来るものの、その両脇に抱えられる2人の友人の姿に眉間に皺がよった。


「お前等、何してるんだ……」


呆れた様子でため息をつく孫兵。
大方迷子の2人が何かやらかしたのだろう。そんな2人を抱える本人をチラリと視線を這わせれば、あはは。と苦笑いを浮かべていた。


約束の時間になっても一向に姿を現さない薄桜色に、もしかして急な実習が入ったのかと心配した孫兵だがそうでは無かったらしい。
全く此奴等は……。同級生だけでは無く先輩に迄も迷惑をかけるのか?


「先輩、何があったんですか?」

『実は僕自身にもさっぱりで……』


相変わらず苦笑いを浮かべながら、亮は其処で抱えていた左門と三之助の2人を下ろした。すると、遠くからバタバタと走ってくる足音と同時に、屋根から降りてきた存在が孫兵の瞳に映り出す。

何でくのたまが……。と呟く孫兵に釣られ、2人も同様に振り返れば左門がまたしても声を荒げるのだった。


「お前等!しつこいぞ!」

「煩いな!左門あんたいい加減に……」

「あ!!亮君!!」


入り乱れるかの様に次々と現れる存在。
騒がしいと思っていた廊下の向こうからやって来たその存在は、どうやら忍たま三年生。作兵衛、数馬、藤内の3人だった。
作兵衛は亮と共に方向音痴の2人が一緒に居る事に安堵するも、その後ろにくのたま三年生が居た事に遅かったぁ!なんて、意味の分からない事を言っている。
そんな彼の傍らでは数馬と藤内が真っ青になり、アワアワと慌てふためいて居た。
何だこの光景は?


「亮君!!」


其処へ新たな存在が混じり込んだ。

高いソプラノの様な声は明らかに女性特有のもの。
桃色の忍装束を着、艶やかな黒髪を靡かせた少女が混沌と化した場面へと現れた。

そんな彼女の後ろには数人のくのたま達が立っており、僅かに肩を上下にしている辺りから走っていたのだと理解する。





辺りは一瞬にして静まり返った。






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現45-総86


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