謳えない鹿2 | ナノ



 

弾かれた様に走った。
それはまるで熱せられた鉄板の上に、水を滴らせるかの様なものに近い。
滴った水は熱に混じる事なく、逆に熱を全身全霊で拒絶するかの様に跳ね回る。

その勢いと亮が跳んだ勢いが似ていた。
突如として抱えていた左門の言葉に背を押された様に、亮は2人を抱え隣の屋根へと飛び移った。
俊足と言っても過言では無い位のその速さに2人は目を眩ませたものの、移動した先の屋根に移った亮は先ほどの俊足とは打って変わって緩やかに走りだした。


一瞬、何が起きたのか?

瞬間的な瞬きをしただけなのにも関わらず、目と鼻の先に居た忍たま三人がいなく成っていた。

もし、瞬きをして居なくとも、きっと何かが通り抜けた。程度にしか感じられない位に、早かったのだ。

そして目の前の状況に思考が追いつかなかった第三者である存在だが、段々と遠のいていく編入生と迷子組の背中を見ては慌てて走り出した。


「待ちなさい!」


そしてまた声を荒げては走り出したのだった。



「うわぁぁ!追いかけて来てる?!」抱えられた左門が首だけ後ろへと振り返れば、凄い形相で追いかけて来る相手、桃色の装束を纏うくのたまが追いかけて来る様子に目を丸くした。
勿論、そのくのたま達が先ほど迄自身達を追っていた三年生なのだと理解すれば、左門の焦りは更に急上昇する。

もう、追いかけて来たのか?!
そう思うと同時に、女の執念は怖い。と改めて実感するのだった左門。

タンタン、と軽やかに屋根を伝わって走る亮。しかし、何故、彼女達が自身を追いかけるのが全く分からない。
脇に居る左門の様子からすると、彼は何かを知っている様だ。


『神崎さん!一体どうなって居るのですか?!』

「説明しているバヤイじゃ無いんだよ!今は逃げるのが先決!」

「先輩凄いっすね。俺達抱えてと走るなんて、七松先輩ぐらいで……」

「うわぁ!後ろにくのたま達がぁぁ!」


ギャイギャイと騒ぐ内容は酷い温度差を感じる。一人は急いで逃げろと言い一人は自身を担ぐ様子を述べる。
勿論これらにちゃんと返事を返す程に亮は余裕は無い。後ろへと軽く振り返れば、相変わらず追いかける来るくのたまの…あれは三年生だ。
自身は彼女達に失礼なことをしただろうかと記憶を掘り起こすも、やはり心当たりが一つも無い。

ああ、せっかくの約束が。


どこかうなだれる亮の様子に気付かず、方向音痴の2人は相も変わらず騒ぎ続ける始末。

すると、耳へと届いた微かな音を拾った亮は、すぐさま身を翻し離れた屋根へと跳びだした。グン!と引っ張られた感覚に2人は同時に悲鳴を上げるが、その刹那に自身等が先ほどまでいた場所に突き刺さるクナイの数々に新たな悲鳴を上げたのだった。



「普通クナイ迄投げるか?!」

「お前等危ないだろ!」


再び音を絶てずに無事屋根に着地すれば、2人の抗議の声が増した。
左門と三之助の抗議を受けるくのたま三年生だが、彼女等はお黙り!と一括すれば2人の口はピタリと止まった。


「私達は亮君に用があるのよ!左門!三之助!邪魔しないで!」

「(俺、関係ないじゃん)」

「だったら、何で影からコソコソ動き回って居るんだよ?!明らかに不審な行動をするお前等なんかに亮先輩を渡すもんか!」

「(渡す所か、むしろ俺達が渡されそうなをだが)」


三之助の胸の内の呟きに答えるものは居ない。
ただ、対峙するかの様に微妙な間を開けた忍たまとくのたまが屋根で会話を交わす姿はどこか滑稽でしか無い。

威嚇するかの様に吠える左門と、それにイラつくくのたま。
此では埒が明かないと判断した亮が、静かに唇を動かしたのだった。




『失礼ですが、僕自身があなた方に何か失礼な事をしてしまいましたか?』


亮がそう言うも、彼女等はうっ、と、どこか息を詰まらせるかの様に顔を歪める。
続けて、ご指摘下されば、僕は正直に謝ります。と言う亮だが、それに対して左門が声を割り込ませた。


「亮先輩が謝る事なんて一つもないですよ!だろ?三之助!」

「え?!まぁ、そうなんじゃいか」

「左門!あんたね!」

「だいたいくのたま達、いっつも僕達に悪戯してくるじゃないか?!
また、僕達を罠にハメるつもりだろ!」

「本当に煩いわねバ神崎!あんた少し黙ってなさい!」


端から見れば痴話喧嘩に違いない言い争いが勃発。だいたいお前等くのたまは、やれ、方向音痴には関係ない、やれ今度は罠に引っかからないぞ!様々である。
勿論、ギャイギャイと騒ぎ立てる左門と、時々話を振られる三之助はバタバタと手足をばたつかせて抗議する。
そして、それにイラつく彼女等がたまに地団駄をする様子に、亮はため息がこぼれそうになった。


もう、いっその事、自身が彼女等と共に行き話しをした方が済むのでは?
そんな考えが脳裏を過ぎた時だった。


どこからともなく間延びた声が此方へと飛ばされる。
2人がくのたま達へと口論する中、キョロキョロと周辺を見回した先に見覚えのある姿により亮はあ。と、小さく零した。







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