謳えない鹿2 | ナノ



 

もつれる足を何とか立て直し、引っ張られながら走る。
走る度に背中の三味線が鳴るが、あまりにも早く走るものだから鳴るタイミングの間が早い。
それ程迄に早く走っていると言う事だろう。

だが、一つ心配事が亮の胸の中を過ぎる。
前を走る彼左門はこっちだぁぁ!と、曲がり道がある度に曲がる為、彼が目指す先が一向に分からないままなのだ。
左に曲がりそのまままっすぐ向かえば、渡り廊下のある向こう側の校舎へと行ける所に出るも何故かその途中にある別れ廊下を曲がってしまう。


勿論その廊下へと入ってしまえば、行き先は180度変わるのも当たり前。
何故だか分からないが、四年生長屋へと入ってしまったのだった。

流石に意味も分からず連れて行かれる身となれば、あれ?と首を傾げたくなる。

ついでに付け足せば隣で一緒に走る彼三之助は、左門が曲がる度にあっちの道じゃなかったけ?と小さく呟いた。

だがしかし、彼が思っていたその廊下先にあるものは裏庭に出るものだったり、門前へと向かうものだと知っている亮からすれ更に目的地が理解出来ない。


そうして居る内に四年生長屋へと入ってしまった3人。
先頭を走る左門が此処じゃない!と言いながら走れば、その騒がしさにビックリした部屋にいる四年生が顔を覗かせた。


「左門!こっちじゃないぞ!」

「分かっているって!」

一緒に引っ張られながら走る三之助の言葉を受けた左門。

そのやりとりを見た所、どうやら四年生長屋に用事は無いらしい。
そういえば。と、ふと亮は思い出す。
自身が廊下を歩く度に感じる視線。それはどこまでも追ってきていた事を脳裏に過ぎる。

それは伊賀崎の部屋を訪れた時や、彼等2人と出会う前に図書室へ向かった時などに感じていた気配と視線。
どうやら相手は上級生ではないらしく、それら2つを完璧に絶つ事が出来ないと見た。

しかし、此方を観察及びつけて来る割には、一向にその姿を表す気配が無い。

此処最近、相手方に何か失礼な事をしただろうか?そう思い出す亮であったが、これと言って失態を犯した記憶は無い。

しいて言うなれば、最上級生である彼に一蹴り入れてしまったと言う事ぐらいだろう。

もしかしたら、その場面を彼を慕う後輩又は恋人にでも見られてしまったのだろうか?
それ故に付けられてしまった?なのか?

考えれば考える程分からない。
本を落とさない様に悩み、尚且つ手を引っ張らる中で悩む亮の姿は意外と器用である。

すると、いきなり左門が大声を上げた事に驚いた亮は、思考から現実へと引き戻される。
一体、何だろう?と言う疑問が沸き立ち、自身達が向かうであろう先が亮の瞳に映り込んだ。
途端に、まずい!と亮はその場で左門の腕を逆に引っ張り、ブレーキをかけるも間に合わない。












そして同時に上がったのは重なったいくつものの声だった。











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