謳えない鹿2 | ナノ



 

「なぁ!こっちは校庭に向かう廊下じゃないか?」

「合ってるんだよ。このまま真っ直ぐ向かえば、僕達の長屋で……」


と、足を踏み出した先にあったのは何故か食堂。ほら、やっぱり。
と横で三之助が言えば、同時に左門が困った様に頭を掻いた。



作兵衛一行といつの間にかはぐれていたらしい左門と三之助の2人。
2人は勝手に自身等からはぐれてしまった、(と思い込んだ)3人を探しに学園を歩き回っていた。初めは何故か三年生長屋へと到着してしまったが、其処で後ろにいた筈の3人が居ない事に気が付く。一通り周辺を探すも何故か2人は門の前に居り、三之助が景色が移動したのか?と分からない事を呟く。

その隣で、とりあえずまた三年生長屋に戻るぞ!と左門が言った数分後、何故か食堂にたどり着いていた。

決断力のある方向音痴の左門と、無自覚の方向音痴の三之助が無事に目的に付ける筈がないのだ。
実際、三年生長屋へ!と向かう2人だが、行き着く先は用具小屋前、一年生の教室廊下、そしていまここにある食堂。
因みに注ぎ足せば、2人が向かう筈の三年生長屋は、徐々に遠退いている事に彼らは知らない。

只でさえ亮をくのたまから守ると言う使命(?)があるのにも関わらず、こんな所で足留めをして居ては意味がない。
こうしている間にも、亮先輩に魔の手が伸び続けて居るんだから!

早く、長屋へ向かいはぐれた3人を見つけて遣らねば。


「三之助戻るぞ!」

「おう、分かった」


さっさと合流しなければならない。そう胸に決意を固め、2人同時に振り返った時だった。
2人の視界の端を何かが揺らめいたのだ。線を描く様にスルリと宙をさ迷ったそれは、別れ廊下の脇の方へと入っていく。

それがただの黒や茶色と言った人の髪の毛ならまだしも、薄桜色と言う特徴ある色合いならば話は別である。

左門はあ!!と大きな声を上げ三之助の手を引き、直ぐその廊下へと走り出せばやはり思っていた人物が廊下を歩く姿があった。
いつもは布に包んでいるだろうそれが無く、姿を現した三味線につい口元が緩みそうになる左門。


「亮先輩!」


遠ざかりそうになるその背中に声をかければ、彼は直ぐに左門へと振り返った。
尻尾の様に揺らめく毛先が細い髪の毛は、振り返ったと同時に再び緩やかな線を描く。そして、此方へと向けられた彼の表情は穏やかなものであり、その口元が小さく笑みを描いていた様子に此方まで釣られて笑いそうになる。

左門は三之助を引っ張りながら、紹介するよ!と亮に走り寄れば、亮はやって来た2人にこんにちは。と、挨拶した。


「こんにちは亮先輩。こんな所で、何してるんですか?」

『図書室に本を借り終えた所で………』

神崎さんは?と首を傾げれば僕は迷子になった作兵衛達を探して……と、そこで彼は思い出した。
確か彼等と話しをしながら移動する最中に、彼等は亮を探し出して……。と言っていた様な気がする。

すると、隣に立っていた三之助がなぁなぁ。紹介してくれよ。と耳打ちしてきた事により、ああ!と思い出したかの様に亮へと向き直った。


「亮先輩、隣に立っているのが同じろ組の次屋三之助です」

「次屋三之助です。宜しくお願いします」

『次屋さんですね、僕は五年は組摩利支天亮次ノ介と言います』

「噂は聞いてます。俺達と同じ三年生で、五年に飛び級したって」


三之助がそう言えば、亮はそう言えば、そうでしたね。と、まるで他人事の様に笑う。


「編入する前の忍者学校ってそんなに厳しい所だったんスか?」

三之助がそう聞くが、亮はどうでしょうね。と笑うだけだ。
そこで三之助と亮との雑談が始まるのだろうと思った左門だが、どこからともなく視線を感じた彼は何だ?と周りを見回した。

3人が居る廊下は人が2人すれ違うくらいに、ギリギリな細い廊下であった。そんな廊下に他の人物と言える存在は見あたらず、気配の欠片も感じられない。
だが、この視線は確かに感じるものであり、違和感がある。

もう一度周辺を見渡せば、やっぱり自身の思い過ごしか。と、亮へと視線を戻そうとした左門。
だが、彼はある事に気づいてしまったのだ。


天井の板が少しだけ外れて居るのが。

そしてその外れた板の奥をよくよく見れば、息を潜める存在が左門の瞳に映った。

誰かいるのか?


亮越しに天井を観察していると、外れて居た板が丸ごと姿を消したのだ。
驚いた左門だが、続けざまに彼は驚く。

スルリと天井から出てきたのが、くの玉だったからだ。
しかもそれが亮の様子を影からじっと伺っている、あの三年生だと知ったからには決断力のある彼は先を考える前に行動に出た。






「それじゃ、後輩は亮先輩だけなんスか?」

『はい、同級生達は当時の進級試験で失敗し…っうわぁ!』

「ちょっ!左門!お前何して…どわぁ!」




左門は話をしていた2人の手を掴むなり、いきなり反対側へと走り出した。

突然の左門の行動に驚いた2人だが、それ以上にどうやらくのたま達が驚いた様子であり3人の後ろからは「待ちなさい!」と高い声が上がった。















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