謳えない鹿2 | ナノ



 

彼を探す手がかりなんて全く無かった。
彼等は常に集団で行動及び移動しながら、忍者である此方の世界を一つ一つ完璧に学んでいた。だから、物も痕跡も何一つ残さず姿をくらます手法は完璧ではあるものの、こうやって彼を探す側からとしては迷惑極まりない。

2週間前にいた古寺、13日前に居たとある武家の屋敷内の一室、7日前に居たドクタケ城内の屋根裏部屋、5日前に居た裏々々山にある古小屋、2日前に居たあの学園内の庭。

全てを当たっても、髪の毛一本すら残っていないその場所は、何も無かったかの様に埃まみれでありむしろ人が入れる様な場所では無い。

人目を極限まで気にしつつ、見つからないそして勘付かれない様に集団で動くには骨が折れる。


先日、古びたあの学園へと向かった矢先での、彼の言葉。

知らないと言う言葉はきっと嘘ではないだろう。
しかし、だからと言ってあのまま探さずには居られないだろう。
彼の先輩である彼等は、何かと過保護な面がある。きっと今でも探しているに違いない。

だから、私も探し出す。
彼等が見つける前に、なんとか!






と、意気込んだ迄は良かったものの、なかなか見つからないのが今の現状。


彼等と面識があるのは我ら忍隊だが、それは数年前の話だ。
彼が在籍していた学園の事情により、一時的に自身らの忍隊に居たがあの時は一波乱有った為、当時一年だった彼は抜けざる終えなくなった。

それからは、任務先や潜伏先で会う機会があった為、気が付けば彼等とは定期的に会っていた。
此方は城に仕えている為に向こうから会いに来てくれた時もあった。そして、彼等が通う古びた学園。ごくたまにでは有るがその学園に帰ってくる事も、時間をかけて調べあげた結果だ。

無論、休みの間では有るがあの学園に行けば居なかった確率の方が高かったものの、会う度に少しずつ大きくなっていく彼等の姿を見るのはどこか嬉しく思えた。

しかし、最後に薄桜色の彼に会ったのは一年前。

確かに彼等にはまれに会っていたがそれは薄桜色の彼の『先輩2人』であり、彼自身では無い。

話を聞けば先生と共に、彼等と別行動をしていたらしい。
2人に居場所を聞いても知らないと言い張る中、半年後に卒業試験が行われると言う話を聞いた。内容は分からないものの、全校生徒がたった3人しか居ないあの学園に見える未来は廃校。
その話すらあの2人の口からもたまにこぼれていたのも知っている。

もし、廃校に成れば2人はフリーとしの忍者を、そして『彼』も彼等と同様に一般の忍者として此方の世界で生きていくだろう。

また彼に会えるかも知れない。
彼に会えなかった分の話が沢山有る。次に会った時にでもこの話をしよう。

そんなことを考えて居れば、自身の上司がいきなり「あの子、卒業したら教えてね」なんて言った時は本当に驚いた。
理由を聞けば、流石、忍隊を指揮するだけの事がある。私の知らぬ間に彼等の行動を色々と探っていたみたい。

しかし、やはりいくらその力量があっても、彼等の行方を完璧に把握する事ができなかったらしい。行方を上手く眩ませているのは、あの先生か或いは、姿を一切見せない学園長の仕業か。

そこは未だに謎が多いものの彼が卒業試験を受け合格した後には、自身の上司は彼を再び忍隊に引き入れるつもりだ。

あの騒動で彼をよく思って居ないと思って居たが、どうやらそうでもないらしい。
上司やその副官、他の仲間達も意外と会いたがっていた。
当時一年の彼は背が低く、よく私達の後を追いかける様に移動していた為だろう。

あの頃の思い出話は尽きる事はない。





思考に浸っていた意思を現実へと引き戻す。
視線が捉えた先には暗号化された文章。

散らばった単発の漢字を組み合わせ、一つの漢字へと作り替える。
そして読み上げた文章を更に解読すれば、自身が欲していた情報が其処に記されている。





「向かった先は北、か……」





彼と先生らしき人物が向かった方角。
市から更に北へと向かった。内容はそれしかかかれていない。だが、これで詮索範囲を絞る事が出来た。それだけで得る内容は異なるだろう。


私は、木に止まっていた鴉へと餌をやり、静かに立ち上がった。

向かうは上司の元。

音を鳴らさない様に、私は静かに枝を蹴り飛ばした。



















100810

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現35-総86

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