謳えない鹿2 | ナノ



 

迎えたのは昼食、残す所は午後の授業だけと言う事もあり、午前中よりも張り切って授業を受ける生徒の姿はどこか滑稽であった。

そのやる気を何故午前中のうちに出さないのか?と思う教師がいるものの、それを言ってしまえば元も子もないだろう。

そんな賑やかに集う彼らは、昼食後は何する?そんな賑わいのある食堂の中で、彼らは食事を取っていた。
今日は売り切れ御免で有名な唐揚げ定食とNo.2であるオムライス定食。

どちらにしようかな?と悩む傍ら、上級生達はポンポンと決めていく。

そんな中、ズルズルと何かが這う音が入り口近くにいる忍たまの元へと届いた。

なんの音だろう?と疑問を抱いたと同時に、其処に表れた3人の五年生にあ!と近くにいた下級生が声を上げた。


「あ!竹谷先輩だぁ」


こんにちは!竹谷先輩!と下級生が手を振れば、彼は空いた片手でおう!と返す様に振った。
そして、そのままカウンターへと向かえば、再びズルズルと音が鳴るのだった。


「亮君またご飯食べてなかったでしょう?」

『食べなかったではなく、只単に忘れていただけですよ尾浜さん』

「嘘つくなよ!お前朝食も食べようともしなかっただろ?」

『だから、それもですね』

「ああ!言い訳は良いから、さっさと注文する!」

尾浜と竹谷に再び引きずられる様にやって来た。同学年の亮である。彼がこうやって2人に引きずられて食堂にやってくる光景が、たまに見かけられる。
希に亮一人で来るときもある様だが、食事を忘れていた。
と言う理由で3人で来る事があった。

亮は食堂のおばちゃんに挨拶を交わし、唐揚げ定食とオムライス定食のどちらを選ぼうかと悩む2人の真ん中でオムライス定食をお願いします。とはっきり言った。

「唐揚げ定食人気だけど、亮君いらないの?」

『ええ、僕、肉嫌いなんです』

「美味しいのに、勿体無いな」


2人は遠慮なく唐揚げ定食を頼む。
同時にちょっと待っててね!と元気のよいおばちゃんの声を聞き、3人は軽い談笑を交え始めた。







「今の所、これといって異常は無いみたいだけど………」

離れた席に座ったまま、カウンター前にいる3人の背中を眺める影がいくつもあった。
影は3つであり他の忍たま達の間から、顔を覗かせる。
名を右から作兵衛と数馬、そして左門である。彼等はおかずをつまみながらもさもさと頬張り、ジッと眺める様子はまるで飼育小屋の小動物の様だ。

くの玉に何か仕掛けられるのではないかと判断した彼等は、とりあえず彼を見守るしかできない。
食堂内にいる生徒の中にはくの玉の姿はない。しかし、この学園にはいくつものの隠し通路や部屋と言ったものがある。
それらは言わずもがな食堂内へと続く所も有る為、どこから手を出して来るか分からない。

警戒しながら食事を続ける3人の姿は、どこか滑稽である。


「今の所はくの玉はいないみたいだけど……」

「でも、警戒を怠る訳には行かないよ」

唐揚げ一つつまみながら数馬が答えるも、その姿に威厳が全く感じられないのは気のせいだろう。3人が何を話しして居るのか?
まだ三年生である彼等が唇の動きだけで言葉を読み取ると言う話術を習っていない為、いくらみえる距離にいるとは言え無理な話しだった。

授業の話しかな?だったら実技?演習?実習?等と彼等にしか分からない矢羽根が宙を舞う。

ふと、亮が話をしていた2人から、3人のいる方へと振り向いた。左門と作兵衛はドキリと肩を揺らすが、一方数馬はひょっこりと顔を出しては嬉しそうな表情をする。
そして、小さく手を振れば、答える様に亮も笑みを浮かべ手を振る。その様子に尾浜と竹谷は気付いて居ないらしい。
同時にランチが届いたのか彼等はそれを手に取り、近くの席へと向かって行った。

その様子に数馬が羨ましそうに眺めているのに気が付けば、数馬。と作兵衛が名前を呼べば、別に亮君と一緒に食べたい。とか思ってないんだから!と意外な面を見せるも、今はそんな場合ではない。
くるりと食堂内を見渡すも、やはりくのたまの姿はどこにもない。


「食事中には来ないって事かな?」

「でも、くのたまだよ。奇襲を狙ってくる可能性だって、無くもないだろうし……」

尾浜と竹谷に向かい合う形で座る亮の背を眺めつつ、今度は味噌汁を啜る。



「他の人が居るから、襲ってこないって事?」

「確かに、あの時は孫兵が一緒にいたしな」

「今は竹谷先輩と尾浜先輩がいる」

と言う事は、誰かいない時をねらっているって事か……。3人で交わす話の内容は、食堂内の賑わいにより他の生徒達の耳へとは届かない。

すると、眺めていた五年生へと近付くいくかの影に、彼等は気が付いた。





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