謳えない鹿2 | ナノ



 

「みんな何遣ってるんだ?」

部屋の前でたじろぐ藤内へと数馬がおかえりーと一言。何かあったのか?と小さく聞けば、亮君の事でちょっとね。と苦笑いを浮かべた。


「何でも三年のくの玉が亮君の事を、聞き回っているみたいなんだ」

そう言えば、ああ、じゃあ…あれもそうかな?と言う意味深い藤内の台詞に、室内にいた皆は怪訝な顔つきへと変わった。

「亮君なら、あそこにいるよ」



と、部屋の外へと指を指す。
僅かに開いた戸の隙間から覗く様に視線を巡らせれば、離れた向こう側の廊下でい組の孫兵と会話する噂の本人がいた。


「何やってるんだろう?」

左門が下敷きになりその上から数馬、作兵衛がさぁ?と答えた。一方三之助と言えば一番上で作兵衛の頭に膝を乗せ、へぇ。と小さく呟くだけだった。


「ねぇ、彼処…」

数馬が小さく呟き指を指せば、皆の視線が集まるのは当然の事。
目を凝らして見た先には木々や茂みに隠れて、孫兵と亮の2人の様子を窺うくの玉の姿があった。見たことのあるくの玉。それは紛れもなく三年生くの玉の姿だ。

彼女達は何やらギラギラした雰囲気を纏い、2人を眺めているだけであり手を出す様子はない様。


「何遣ってるんだろうアイツ等…」

「偵察。って訳でもないしな……」


殺気と言える様な物を纏ってはいないものの、どこか真剣な眼差しを2人に……イヤ、よく見れば背の高い亮の背へと向けられている。
しかし、2人は気付いていないのかそのまま談笑しており、まるで蚊帳の外と言わんばかりである。


すると、亮が持っていた本を孫兵に渡し、それに対し孫兵が頷けば亮はその場から立ち去った。続くように、孫兵が自身の部屋へと入って行った。
彼はくの玉が隠れている反対側の廊下へと進み、そのまま奥の廊下へと姿を消して行ったのだった。

そして、亮の存在がその場から完全に居なくなれば、隠れていたくの玉達は姿を表す。
いくつかの言葉を交わしては、反対側の廊下へと走り去っていった。

そんな不思議な一部始終を見てから、気にするな。と言う方が無理である。その場に誰も居なくなり、少しばかり呆然として居れば、藤内があれの事だったみたいだね。と呟いた。


「やっぱり気になるな………」


それは彼を案じてでの言葉だった。いくら彼女達も忍者の卵と言えど、忍たまに仕掛けてくる悪戯は稀に度が過ぎている事がある。
それを思えば、もしかしたら彼女等は亮君に、何かしらの悪戯を仕掛ける準備をしているのかも!そう作兵衛が言えば、何故か納得の行く物が彼らの中にストンと落ちる。



「僕!亮君をくの玉の手から護るよ!」


下敷きになりながらグッと手を掲げる数馬の言葉に、俺も手を貸すぞ数馬!と作兵衛が言う。勿論、僕も!それじゃ、俺も!と笑う4人に、藤内はついて行けずはて?と、疑問符を浮かべるだけだった。







「ねぁ、何の話?」






藤内がそう聞いたと同時に、重なっていた彼ら4人が一気に崩れ落ちた。
言わずもがな、一番下にいた数馬が他の誰よりも悲鳴を上げたのは当たり前な話だった。




















100805

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