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私と亮との約束。それは2つあったが一つはあえなく無効。しかし、もう一つであるそれは有効となりまぁ良いか。と私は抱く。
其処は私達の部屋、同室者の雷蔵は委員会で不在。今いるのは私と亮の2人だけ。
何故此処に亮が居るか?それは以前の約束であるいつも背中に背負っているそれを見せてもらう為。亮との約束。その一つがそれだった。後一つはまぁいつかは必ず成し遂げてやろう。
向かい会う形で座る亮は背中からそれを外し、自身等の間に空くその空間へと置いた。コトリと鳴らす小さなそれは重い品物ではないのだと理解出来る。
「亮はいつもこれを持ち歩いて居るな、何故だい?」
『これが近くないと落ち着かなくて、気が付いたら持ち歩いて居るので………』
クスリと控えめに笑う亮は包まれている布を一枚一枚取り外す。その手をみて私は初めて亮は華奢なのだと分かる。組も違うしあまり会う機会がない。そのせいだと思っていたが、そうでも無いらしい。
そこでちょっとした違和感を抱く。しかし、それが何かだとははっきりしない。
シュルシュルと解かれていく布の音が耳を掠める。そして、亮の控えめな声で私の思考は現実へと戻って来た。
「………これか?」
『はい』
ソッと手を添えて私はそれに触れた。
指先に触れる素材は触った事のあるもので、これといった違和感はない。
『因みに名前はアクチニウム君です』
「名前があるのか?!」
『愛着があるもの程、名前を付けたくなるものでしょう?』
フフ。と笑う亮は相変わらずで、私は四年生じゃ有るまいしと思う。確か四年生も己の私物一つ一つに名前を付けていた。何故物に名前を付けるのかその神経が分からなったが……そうか。愛着が有るから名前を付けたくなるのだろう。
では、六年生の先輩方も名前をつけているのだろうか?
「……………」
想像し気持ち悪くなった。己の使用する武器に名前を付け、逸れを呼ぶ六年生の先輩に。
まだ四年生だからこそ許されるものだろう。
私はゆっくりと逸れを手に持ち膝の上におく。そしてソッと手をあて軽くはじいてみた。
ポン。
ちゃんとした弾く道具がない為、軽くしか鳴らないその音色はジワジワと私達のいる室内へと溶けていく。
「ただの三味線だな」
コんと銅を軽く叩くも音はなにもせず、そこら辺にある普通の三味線だった。
『弾かれますか?』
懐から三味線を弾く道具、撥(ばち)を取り出した亮だが私は三味線の弾き方を知らない。逸れを断り私は元の位置に戻す。
「いつからこの三味線を持って居るんだ?」
『前の学園に入学した時からです』
「ふーん」
前の学園。亮がいた廃校となった忍者育成学校。
まだ軽くしか教えてもらって居ないその学園は、私の中では謎が多い。だからだろう、亮の居た学園そして亮自身に興味が沸くのだ。
「向こうの学園でもこうやって持ち歩いているのか?」
布に包んでだ。すると、亮はいえ。と答えたのだ。
『向こうでは普通に持ち歩いていました』
「でも、こっちでは包んでいるだろう?」
それに亮はハハと乾いた笑みを浮かべたのだ。そしてその理由がこっちでは可笑しく見えてしまうのではないかと言う理由らしい。
しかし、四年生の綾部等は泥が付いて様とお構いなしに室内へと持ってくる。それを見慣れている忍たまにして見れば亮が三味線を持ち歩く姿なんて、可笑しくとは思えないだろう。
そもそも、布に包んでいる方が中身が気になると言うものだ。
「包む必要は無いんじゃないか?」
『え?』
「見えないで居る方が人間気になるってものだろう?だったら……」
隠さず堂々と持ち歩けばよい。でないと、またこの前みたいにい組の奴に盗られちまうぞ?
その言葉に良いんでしょうか?と首を傾げる。
「別に良いんじゃないか?それとも、それに関して先生に何か言われたか?」
『………いえ、ないです』
「だったら問題ないだろう?」
今日からでも良いから、やってみた良いさ。
そう笑う私に亮は口をぽかんとした様子だったが、そうですね、やってみます。と笑った。
其処で私は置いてある三味線へと指差せば、亮はまた首を傾げる。
「三味線を持っていると言う事は弾けるのだろう?」
是非、一曲……。と言いかけた時だった。亮が閉じている襖へと顔を向けたのに私は気が付く。何かあるのかと私も視線を向ければ遠くから此方へとやって来る存在に、何だ?と抱く。
しかし、それが自身の所属している委員会の可愛い後輩だと理解すれば、同時に襖が勝手にあけられたのだった。
「鉢屋先輩。此処に居ましたか」
現れたの黒木庄左ヱ門。委員会の後輩で、一年生にしては冷静な思考を持つ少し変わった子である。すると、庄左ヱ門は私の向かいにいる亮に気が付いたのか慌ててその頭を下げた。
「はじめまして。一年は組の庄左ヱ門です」
『摩利支天亮次ノ介です。宜しくお願いします』
「いきなりですみませんが、鉢屋先輩に用がありまして……」
私に向けられた庄左ヱ門の視線に、今日は何かあったか?と思い出そうとするがなかなか出て来ない。委員会はなかった筈だが………
「鉢屋先輩、次の予算会議の決算表を作っていないですよね」
「あ」
庄左ヱ門に言われて私は思い出した。
確か、作ろうと思っていたその次の日が六年生相手の課題実習だったのだ。相手だった食満先輩にノックアウトされて、不合格になり単位を落としたそのショックで流れる様に私は忘れていた。
「すっかり忘れていたな」
その言葉に庄左ヱ門がしっかりして下さいよ。と可愛らしく怒る。その様子が可笑しいのか亮は小さく笑って居るのが、視界の隅に映りだしていた。
『では、僕は席を外した方が良いですね』
包んでいた布を懐に入れ、おいていた三味線を手に取り立ち上がる。
その様子にさっそく私が言った事を実行してくれているのだと思えば、どこか嬉しい気持ちになる。
「お話中にすみません、摩利支天先輩」
『構いませんよ黒木さん。雑談より委員会の方が何より大切ですからね』
ふわりと笑う亮につられて庄左ヱ門も笑う。私も立ち上がり部屋から出れば庄左ヱ門と亮が後を追う形で出て来る。
「部屋でゆっくりして行けば良いのに」
『それでは、戻られた不破さんが驚かれますよ』
「脅かしてやりな。亮もたまには悪戯をしてみるものだぞ?」
『何を言いますか。鉢屋さんだからこそ、その悪戯が許されているのですよ』
僕は流石に出来ませんよ。なんて言う亮に私はそうか?としか答えれなかった。
「鉢屋先輩」
「ああ、わかったわかった!」
制服の端を引っ張り早く早くと促してくる後輩が可愛らしい。
私は亮へとまた今度な。と手を振れば亮も返す様に小さく振る。私は促してくる庄左ヱ門の背中を押し共に学級委員室へと向かおうとした時だ、最後に亮に委員会の事を聞こうと振り返った。
「なぁ、亮……」
振り返った時にあった亮の背中。
長い薄桜色の髪を靡かせ私達と反対側へと歩き去る背中が、私の瞳に映り出す。
しかし、その背中が何故か重く見ている此方が、息苦しくなる様な感覚が襲う。
「っ!」
無意識に息を飲んだ自身がいた。
何故そう感じたのか、何故息が詰まりそうになったのかが分からない。一瞬にして背中に変な汗が湧き出した。
すると、亮はゆっくりと此方へと振り向き、呼びましたか?と何もなかった様に浮かべた笑みに、錯覚?なんて思ってしまう。
「いやその……またな」
『はい。また後程』
笑みを浮かべたまま、亮は再び反対側へと歩いて行く。今度はその背中をじっと眺める私だが、先ほどの様なおかしな感覚は亮の背に存在して居なかった。
「鉢屋先輩、鉢屋先輩」
「ん?」
「行かないんですか?」
困った様に首を傾げる庄左ヱ門に、いや、行くよ。と笑顔で返し私は止まっていた足を再び進めた。
了
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現2-総86