謳えない鹿2 | ナノ



 

込められたのは自身の気持ちを綴った文字と言うおまじない。
その文字を読みおまじないにかかれば、送り主の勝ち。見える未来は彼の様に季節外れな暖かい春。しかし、逆に言えばそのおまじないに掛からなければ、送り主の文章力が足りないと言う事になる。

意を決して、綴ったそれを白い包みに入れる。
そして、その香の元である花。忍たま上級生となれば花や薬草と言った知識が豊富になる為、この香の花である花言葉は直ぐに理解する筈だ。

編入する前は三年生だと噂を聞いたが、今の彼は五年生。知識経験が豊富でなければ飛び級なんてする訳ない。
だからきっと彼はこの花言葉を知っているに違いない。



気付いてくれるかな?





膨れ上がるのは彼への気持ち。







* * *


最近になって同学年であるくのたま達が、彼ら忍たまの元へと訪れてくる回数が増えた。
彼女達が纏う雰囲気はいつものようなものではなく、どこか殺気立ったものに近い。近くを歩く忍たまを捕まえては何やら聞き込む様子。そして、聞き出すべく内容を聞けば彼女達は直ぐにその場から立ち去っていくのだ。
たまにでは有るが、舌打ちし、使えない。と呟いていくのも数知れない。

その度に捕まっていた忍たまは何故か涙目で長屋へと戻ってくる。と言う光景が此処最近、忍たま三年生の中で起きている。
勿論それらが起きている。と言う噂があるだけであり、三年生である彼等がそれを耳にした日はその珍現象が起きてから数週間後の事だった。

では、何故それを今になって彼が知る事ができたのか?
保健委員会である三反田数馬の言葉によるものだった。委員会中に運ばれてきた一人の三年生。それは孫兵と同じい組の生徒。彼は同学年の子に背負われての登場に、驚き怪我でもしたのか?と問えば、硝子のハートがな。と背負ってきた彼が言う。

勿論訳が分からない数馬は、話を聞くも曖昧にしか彼は答えない。しかし変わりにそう言った事が起きていると言う事を聞けば、それに関してい組の彼が倒れたのだと推測した。



「って言う事が今まで起きていたらしいんだ」

机に腕を伸ばしながら目の前でのんびりする友人達に紡げば、彼らはへーと興味なさそうに返事を返すだけだ。その様子に数馬は人の話聞いてる?!と声を荒げれば、寝転がっていた三之助がよいしょっと起き上がった。


「だって、くの玉だぞ?何か仕掛けてくるに違いないだろう」


出されたお菓子をパリパリ食べる彼は、自身の食べこぼしに気付いているのだろうか?そしてそれを片付ける羽目になる此方の気持ちを知らずにやっているのならば、質が悪い。と数馬は思う。


「でもね、この話まだ続きが有るんだよ」


今度は神崎左門が続き?と、首を傾げる身を乗り出してきた。



「何でも、くの玉のみんな亮君の事を聞いてくるらしいんだ」


そう言えば、先ほどまで無言だった作兵衛がえ?!と声を上げた。勿論迷子コンビである彼等も目を丸くし、驚いたと言う表情を作り出す。


「何で亮先輩の名前が其処に出てくるだ?」

「分かんない。だけど、僕達三年生を見つけては亮君の事を色々聞いてくるとしか聞いてないんだ」

何故、三年くの玉である彼女達が五年生の彼の事を嗅ぎ回っているのか?ただ、彼に好意を寄せているにしてはどこか不気味が悪い。

「なぁなぁ」

「何だ三之助?」

「亮って、あの六年生の制服を着ていた人の事か?」


向かいにいる左門に聞けば、ああ、あの時の人が亮だよ!と、何故か彼が得意げに言う。
一度だけしか会った事のない三之助、話を聞けば彼と話を交わした事があると言う皆に俺だけ仲間外れかよ。と膨れた。
今度会ったら、亮君を紹介するよ。と数馬が言えばとりあえず納得したのか、渋々と首を振った。


「亮君、くの玉に何かやったのかな?」

「亮先輩がそんな事する様な奴に見えるか?」


肘をつき天井を眺めるもこれと言った事が思い浮かばない。むしろ、人付き合いのよい笑顔がチラつき、礼儀正しいあの口調で話す彼が脳裏を過ぎればくの玉に何かちょっかいを出すようなものではないと理解出来る。

もしかして、自身等が知らない所でくの玉に手を出していたのでは?と、出かけるも、こんな事を言ってしまえば過剰想のひどい彼が変な方へと考えてしまうに違いない。
チラッと彼を見れば左門と一緒に悩む姿が其処に合った。

すると、そんな室内へと飛び込んできた一人の生徒、藤内である。
藤内はただいま〜。と疲れた様子で部屋へと入ってくるものの、部屋の中を埋め尽くす重い雰囲気にうわ!と驚きの声を上げた。





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