謳えない鹿2 | ナノ



 

照らされたたった一つの月明かり。
忍を目指す物には動きやすい時間帯だと言い張るも、その経験が浅ければ浅いほどに動きやすい!とは言いにくいだろう。

上級生達に取っては慣れたものだろうが、一年生や二年生と言った下級生達にはまだまだ辛い時間。

忍者の卵である経験も上級生達に比べれば酷く差があり、その年代で夜更かしなんて屁でもない!と言い張る下級生が居たとしたら、それこそ異質。
嘘をつくなよ。と、つい言ってしまいたくなる。

目と鼻の先にあるそこは一寸先が見えない暗闇。ふと、手を伸ばせば指先は暗闇の中へと埋もれてしまい、手を引っ張る様な違和感が彼に襲いかかる。

急いで手を引っこ抜くも、その違和感は手から離れない。急いで振り解けば、違和感はすっかり無くなる。
随分夜も更けたなる。そう言えば、きっと彼はそんな他人ごとみたいな……。と笑うに違いない。

一年生の時は、この暗闇が怖くて怖くて仕方なかった。

勿論それは忍者の卵としての経験が浅かった為だろうが、今最上級生となった自身にして見ればさほど問題は無い。

保健委員会委員長。そんな肩書きを持つ私。こんな夜遅くになるの事はたまに有るが、決して委員会の用事で遅くなった訳ではない。
まぁ、たまに委員会で遅く成ることも有るが、今日は別の用事でこんな遅くまでかかった。

前回の予算会議で保健委員会は全額予算を無事通す事が出来たが、予算案を見直した所中身が絆創膏、包帯、トイレットペーパーと言った初歩的なものだらけであった。

最上級生の私の次には三年生の三反田数馬と言う子が居るものの、医学の授業そして薬草と毒薬の調合。
と、言う授業内容をまだ習っていない為、難しい漢字の名前で綴られる薬の名を書き込み事は出来ない。確か、あの授業は四年生の後半で習った筈。
こればっかりは仕方ない。只でさえ、委員会に所属する忍たまの数は足りなく、長期の潜伏任務合宿に向かっていた五年生の尾浜勘右衛門。彼が入る委員会で揉め事が起きたのは記憶の中では真新しい代物だ。
とりあえず、同学年の鉢屋三郎率いる学級委員会に入ったものの、当日起きた揉め事後の惨事は本当に凄まじかった。

上級生に上がるに連れて忍たまの数はどんどん少なくなって行く。
それは忍者としての目標が自身に合わないと判断し、自主的に辞めていく子や親に強制的に辞めさせられる子だって居る。

しかし、上に上がれば上がる程にその知識は本物であり、経験が豊富である。それは委員会では必要性が増すものだ。
経験した知識は後輩のカバーに入りやすく、その勘の鋭さは最上級生である六年生のサポートに適している。

それに、今年の五年生は今までの全体的な五年生の人数と比べれば、酷く少ない。
あのほんわかは組で有名な五年生のクラスでさえ、10人居る事が有り得ないと思う位に。毎年は、20人近く居たのだが……。



「(まさかな少子化だろうか?)」


アチコチで日々繰り返される戦の毎日。
戦にかり出されるのはその城に勤める家臣だけでは無い。近隣に住む民衆達が赴く。
そうなれば必然的に見えてくる大黒柱不在。
女子供だけではこの世の中を生き抜く事は不可能に近い。

だからだろう。在学中の五年生すべてが他の委員会に所属している。
他の委員会に移らないかと勧誘した所で、そこの委員長が怒り狂う。

まだ、自身のいる保健委員会に下級生達がいる事が救いだ。

その保健委員会で育てている薬草菜園、そこで無事育っているか。と言う世話の為に私はこんな時間帯まで起きていた。薬が予算内から買うことが出来ない為に、自身達で育てるしかない。
まぁ、雑草を抜こうとして新芽を抜いたり、水を巻くために入れていた桶をひっくり返したりと様々な惨事に見回れたがこのまま行けば無事に育つだろう。


さて、急いで自室に戻らなければ。
いくら忍者が夜に動く存在だからといって、そう毎日夜更かしが出来る程完璧には出来ていない。早く寝て今日の疲れを取らなければ。

もう少しで六年生長屋へと向かう別れ廊下。其処へ向かえばもはや一本道だ。周りは壁だから、万が一の奇襲攻撃は前後であり行動パターンをいち早く取れやすい。

角を曲がり、月明かりが途切れた暗闇の一本道。

その一本道へと向かおうとした時だった。


僅かな音を私の耳が拾った。
それはまるで木材を引っ掻く様な音で、近くで猫が爪研ぎでもしているんじゃないかと思える位。一定的に刻むリズムはガリガリと鳴り、途切れる様子のないそれはよくよく聞けば違和感がある。
勿論これは、六年生としての勘だけど。

気になった。
決して強弱をつけない決まったリズム感は、どこか異様だと。
だから私は向かう筈の廊下へとは入らず、もう一本伸びた廊下へと足が向いた。



時だ。



音は突如として止み、まるで何も無かったかの用な静けさが辺りへと訪れた。

同時に浮かび上がるのは影。
影の中に紛れる存在は気配を絶っており、そこに人がいたのだと気づいた時には以外て近くまで此方へと近付いていた。

気配を消していたと言う事は六年生か?と思えたが、現れたその五年生にああ!とつい声を出してしまった。






「亮!」














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