謳えない鹿2 | ナノ



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「亮先輩の事か?ああ、会ったよ」




図書委員会の集まりがあるから、授業が終わった放課後は集まってくれ。
委員会の件を伝えに来た久作は、一年は組の扉前で腕を組んでいた。
用件だけを伝えた彼だったが、飛び級した五年生に会いましたか?と後輩に聞かれては、答えない訳には行かない。
今日、昼飯前辺りにな。と告げれば、クラスにいたよい子のは組諸君がわらわらと集まってきた事に、正直久作は驚いた。


何でも今、団蔵が彼の話をしていたらしく、それを聞いていた彼らはどんな先輩なのだろうかと興味を抱いた。
そんな中、亮と話した事のある久作が来れば、どんな人物なのか?特徴は?等と言った質問が次から次へと飛んでくる。

は組らしいと言えばは組らしいが、まさか実際に自身がそれを体験するとは思っていなかった久作はたじろぐしか無い。

強引に此処は立ち去るべきか?

そんな事が脳裏をよぎった時だ。
自身にかかる影に久作は振り返れば、何をやってるんだ?と土井先生の呆れた顔が彼の瞳に映り込んだ。
久作は理由を話せば、土井先生はそんな事かと小さく笑う。そして、たじろぐ久作へと視線を向ければ、意図を理解したらしく一礼しその場から立ち去った。


「ええっと、それで五年の編入生だったか?」


は組へと振り返れば、そこには待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる一年生。
興味津々な様子につい口元が綻ぶ彼では有るが、それはどこかぎこちないようなもの。つまり苦笑でしか無かった。


「私も彼の事はあまり知らなくてな」


そう言えば、一年生諸君等はええ!と不満な声を上げた。

実際、彼、土井先生の言うとおりである。五年に飛び級し編入してきた元三年生。彼が居た学園が廃校になる為に、まだ三年生である彼が編入。学園名を聞かされて居ない為、どう言った学園なのかは分からない。
ただ、彼の性別は本物の「彼」ではないと言う事。

何故くのたまでは無く忍たまとして編入したのかは謎だが、それなりの理由が有るから。としか聞いていない。
勿論、これを教える事はない。


「そんなに知りたかったら、本人に直接聞けば良いだろう?」

「でも、先生。僕達なかなかその先輩に会えません」


壺を持った彼は不満そうに口を尖らせれば、所々から僕も私も。と声が挙がる。
言われて見れば、接点のない一年生と飛び級してきた彼とでは、話す機会がなかなか無い。
だが、だからと言ってそのまま放置しておく訳にも行かない。

いつかはちゃんと対面させなければならないな。
そんな事を胸に抱けば、同時に授業を開始する鐘が鳴った。

彼は午後最後の授業を行うべく、自身の受け持つクラスの子を席へと付けさせたらのだった。






















100729

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