謳えない鹿2 | ナノ



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『3つの半規官、名を<前半規官><後半規官><外反規官>はおよそでは有るが90度近くの角度で傾いていると推測され、無名とされている3つの軸の様に三次元的な回転運動を察知する事が出来ると言われている。
そして…前半規官と……』

「摩利支天、」

『はい?』

「其処は六年生の授業で習う場所だ」

『……スミマセン』

「では、赤村。平衡感覚について言ってみろ」


赤村と呼ばれたは組の彼は静かに立ち上がり、同時に亮は席へと座る。
隣から感じる視線に気づかないフリをし、亮は開けられたら窓へと視線を追いやった。

午後の授業となった今。食堂内での騒がしさが嘘の様に感じる。

いきなり、蹴り飛ばしてくれと言われた亮。流石に場が凍り付いたのは言うまでもなく、彼等は唖然としていた。

しかし、タイミングよく鳴った鐘により、彼は野外授業があるからと何事もなかったかの様にすぐさま食堂から出て行った。
勿論それは五年生である彼等も同様であり、食事を済ませてはすぐさま教室へと戻り今に至ると言う訳だ。只今は組の授業内容は人体の急所から始まり、人間の体内にある規官類と言ったものと成り代わる。
しかし、先に述べた亮の内容はどうやら五年生の授業内容ではないらしい。
再び隣から感じる視線に気づかないフリをし、開けられたら窓へと視線を向けた。

写るのは曇り空。青い筈の空にかかる白い雲は様々な形を作っている。

教室内へと渡るのは規官の詳しい内容。
しかし、残念ながらそれは以前いた学園で既に学んでおり、亮からして見れば聞き飽きた内容となっていた。
述べられる言葉は右に入り左へと抜けていく。まるで、ザルではないか。そんなふざけた事を思い描き、くるくる回されるのは戯れ程度の一本の筆。

墨は着けられていない為、周囲にとぶ事はない。

零れそうになるため息を脳裏で殺す。

空を横切る鳥の羽ばたく音。

それすら教室内へと零れてくる風景は酷く穏やかであり、向こうの日常と比較すればかなり違う点だと亮は思えた。

ふと、視線を手元にある忍たまの友へと注ぐ。

忍たまの友に綴られている内容は確かに、授業内容の詳しい説明文だろう。しかし、達筆なその文章に亮は僅かに眉を潜める。

上手く字を読めないからでも有るが、それを理解しようとしない脳にもしかして?と抱く。

最後に兵糧丸を食べたのは久作と出会う前である。

確かあの時は少量分のものしか口に含んではいない。頭がどこかボーっとする感覚のせいで、きっと授業内容が頭に入ってこないのだろう。

そう思えば、なんだか情けない。
と言う感情が湧き上がる。
もし、こんな状態で敵襲にでも会えば、笑い事で済む話ではないだろう。
白い指先が教科書の文面をソロソロとなぞる。文面と共に乗せられる図形は人の形を描き、線を引かれた先には文字が書き込まれる。


『(頸動脈、輸入細動脈に輸出細動脈)』

文字は読めなくともそこにある規官類は大方理解出来る。まるで暇つぶし。と言わん様子で視線を落としても、やはり感じる周囲からの視線。




『……………』










ハァ。

殺しきれないため息が、僅かに唇からこぼれ落ちた。























100726

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現24-総86

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