謳えない鹿2 | ナノ



 

「「七松先輩!!」」



2人のハモった名前に亮は、隠れた前髪の向こうで眉間に皺を寄せた。しかし、誰もその表情を瞳に映す事は無かった。


七松先輩と呼ばれた彼、以前渡り廊下で亮と合った六年生である。


「よ!尾浜に竹谷、危ない遊びをして居るな?」


焙烙火矢を使う遊びをするんなら、外でやれよ?
そう笑う七松。そして、じゃ!と白い歯を見せ2人へと背中を向けては歩き出す。バタバタと彼らしい足音を鳴らし、少しづつ遠ざかって行く六年生の背中。呆然と眺めていたが自身達の目的の人物が離れていく事に気付き、我に返ってた2人はドタバタと慌てて彼の背を追った。


「ちょと七松先輩!ストップ!!」


八左ヱ門が慌てた様子で駆け寄れば、七松が何だ?と言わんばかりに首を傾げ振り向いた。

やっと止まった亮だが、いきなり現れた六年生に連れてかれてしまう。それでは、今までの苦労が水の泡だ。
特に八左ヱ門辺りが。
やっとの思いで追いついた亮。
その当人は両脇を掴まれ浮いた状態。本人はあはは、と乾いた笑みを浮かべたままであり口端がぴくりと痙攣している。

びっくりしていて、動けないのだろうか?
心配する声を一番にかけようと思う勘右衛門だが、時間が押している事を思い出す。そして、持ち上げられる亮を七松から強引に引っ張り出せば、彼は驚き再び目を丸くしたのだった。


「おいおい、私は亮に用があってな……」

「すみません先輩!」

「俺達も亮に用事が有るんです!」



しかも、時間付で!!
その言葉に、意味が分からないぞ?と言う先輩の言葉を聞きながら、八左ヱ門は呆然とする亮の左脇をがっちりホールドした。それに驚く亮と同調する様に勘右衛門が開いた右脇を掴む。

完全に2人に捕まった亮は疑問符を浮かべた。

同時に、後ろ向きに走り出した事に足が追い付いて行けず、わわ!わぁ!と声を上げる亮。
しかし、その様子に構ってられない勘右衛門と八左ヱ門。


お互い亮をホールドしながら、来たばかりの廊下を逆走。急いで走った為亮は、引き摺られるしか無かった。


「亮との要件は、俺達の要件が終わった後にして下さい!」

「あ!お…おい!」

「行くぞ!勘右衛門」

「ああ!」

『ちょ、お二方!流石にこの格好は…わ!わわ!』


2人はそれだけを言い残し、その場から姿を消した。同時に此方まで響き渡る位になり渡る、ドドド!と言う効果音。そして、遠くの廊下からこだまするのは、亮の声と六年は組の2人の叫び声だった。
離れている七松からの距離からして、向こうで一体何が起きたかなんて分かる筈が無い。
だが、あの2人の事だ。きっと勘右衛門と八左ヱ門にはねられた、踏みつぶされたかのどちらかだろう。


「あーあ。やっと見つけたのに、連れてかれたな。亮」


頭の後ろに手を組んだ彼はつまらなさそうに口を尖らせた。
その瞳には誰も居なくなった廊下の姿があり、酷く物静かな世界を醸し出す。


「まぁ、良いや。アイツは逃げないだろうしな」


その言葉だけ残した彼は、フラフラとどこかへと去って行ってしまう。

包み込むのはただの世界。
僅かに聞こえるのは騒がしく廊下を駆ける、五年生の足音だけだった。


















100722

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現22-総86

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