謳えない鹿2 | ナノ



 

「食満先輩、善法寺先輩!その五年生捕まえて下さい!」


名を呼ばれた2人はすぐさま振り返った。

自身達が来たばかりの廊下。

一人は離れた先からもう一人は此方へと向かって来ているのが分かった。勿論驚いたのは言うまでもない。

何故、五年生ともあろう上級生が下級生達の様に慌ただしく廊下を走って居るのか?授業の一環だろうと思えるが、遠くで走ってくる八左ヱ門の様子から見てそうでは無いと確信する。

すると、隣を歩いていた彼、伊作が亮?!と驚いた声を上げた。友人同様にその方角を見れば、此方に走ってくる薄桜色の存在に目が見開く。

確か彼は、会計委員会の下級生達としゃがみ込んで話をしていた五年生だ。伊作から聞けばなんとあの飛び級編入生だと言う。
しかし、その編入生が何故八左ヱ門に追われて居るのか?

理由が分からない2人にはさっぱりでは有る。だが走ってくる亮との距離は詰まる一方。

さて、どうする?止める?それとも逃がすべき?そんな会話が食満と伊作の間で交わされるが、走る八左ヱ門からある台詞が紡がれた時に伊作の目の色が変わった。



「善法寺先輩!亮の奴ご飯食ってないんですよ!!」

「何だって?!」



保健委員長である彼。

忍たまの怪我等の治療を新野先生に次いで率先する彼が、人の体調管理に口を出さない訳が無い。

食事を取ることでしっかりとした体作りが出来、負ったばかりの新しい傷を早く癒やす効果がある。

故に栄養が上手く調整されて居る食堂のおばちゃんのご飯は、生傷が絶えない忍たま達には必要不可欠だ。

その食事を取っていない。つまり、身体内部の栄養バランスが崩れる。
後、実技授業での体力が直ぐに尽きる。
そして、貧血、不注意により感覚麻痺の怪我或いは大怪我を負う。

忍たま達が負ういくつもの傷を見てきた彼だからこそ、出来る限り大きな怪我は負っては欲しくない。その根元とも言える体調管理はまず口に入れる食事から始まる。
しかし、薄桜色の彼はそれを取っていないらしい。

此方に走ってくる彼は相変わらずの様子であり、八左ヱ門の台詞でバレましたか。なんて小さく唇を動かすもんだから、これはお説教しなくては行けない。

背を向けていた筈の伊作が亮へと振り向いた。


「亮!止まりなさい!」


廊下の真ん中にドーンと仁王立ちした友人に、食満は驚きおいおい。と零す。
何せ彼の説教は長い。い組の彼と喧嘩し、怪我を負う度に長々と続く説教を受けた事がある。その為に、今走る亮と呼ばれた五年生を止める事は出来ない。

仕方ない。

とりあえず、彼を止めてやろう。いくら面識が無いとは言え、薄桜色の彼はちゃんとご飯を食べて居ないらしい。上級生として、何か言ってやらないと。

食満は万が一の為に後ろの方でスタンバイする。

走ってくる亮が角を曲がる。
それを追う八左ヱ門はまだ離れている。
此処で止める事が出来れば、八左ヱ門は直ぐに追いつく事が出来るだろう。

伊作は懐から常備しているクナイを数本取り出した。






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