謳えない鹿2 | ナノ



 

「亮!待て!!」


バタバタと騒がしく廊下を駆ける上級生二人。
一人は薄桜色を靡かせる亮であり、もう一人は痛んだ髪を気にする事なく揺らす八左ヱ門だった。

先頭を走るのは亮。三味線を片手に掴みながら走り離れた後ろから追いかける八左ヱ門。
人気の無かった廊下から飛び出た先は忍たま生徒が行き交う廊下。勿論今は昼時の時間帯であり、様々な学年が行き交うのは当たり前だった。

走り抜ける二人の存在に驚いた忍たま達は、慌て脇へと身を寄せる。




「亮!止まれ!」

『では、竹谷さんから止まって下さい。そしたら僕も止まりますよ』

「分かった!止まるから、亮止まれ!!」




しかし、そう言う八左ヱ門だがその足は止まる気配は無く、逆に速度を増している様子に亮は溜め息が零れそうになる。

一定の距離を持ちながら走る二人。

競争でもしているのかと思われがちだが、亮を追いかける八左ヱ門の様子にそうではないのだと理解出来る。八左ヱ門も前を走る亮に追い付こうと走るも、なかなか追い付かない。これでも速度は上げているのだ。

しかし、亮自身がこの一定の距離を保つように走っているのか、二人の距離が詰まる気配がない。

亮と八左ヱ門は以前、やりあった時があった。
私物がなくなりその犯人探しで、は組の生徒に変装した亮と。

彼の体術に自身の体術は太刀打ち出来なかった。

つまり亮は、体術と言える能力が高いのだと悟る。未だには組との課外実習や合同授業を行って居ない八左ヱ門は、亮の実力を知らない。

しかし、い組との組み手に先日の課題授業等の話を聞けば嫌でも分かってくる。

逃げる亮だが一気に加速したり姿を消さない所をみると、本気で逃げては居ないのだと言う事。
手加減されていると思えば、意地でも亮を捕まえたい。

なにせやっと亮を見つけ出したのだから、なんとか捕まえて行かなければならない。
昼休みが終わる迄に。

一時間目。い組との合同授業を終えた八左ヱ門は話を聞いた勘右衛門と共に、すぐさまは組へと向かった。しかし、は組には誰一人として姿が見あたらず、先生に聞けばは組は昼食が取れる時間帯迄は郊外授業へと出て行っているとの事。

勿論それは、郊外授業が終わり戻ってくる迄は亮に会えないと言う事だった。
二時間目、三時間目、四時間目が終わると同時に隣のクラスが賑わっていたのに、八左ヱ門は気が付いた。
雷蔵も亮の件を聞き二人で再び行くも、またもや其処に亮は居ない。話を聞くも始めと同様の様子に埒があかない。

そう判断した八左ヱ門は亮を探す事を雷蔵に伝えた。
すると、い組の勘右衛門がやって来ては自身も探すと言い出した。
兵助と三郎は緊急の委員会で一緒に探す事は出来ないものの、後で合流すると言う。ならば合流する前に何とか見つけなければならない。

八左ヱ門は合流場所を告げれば分かった。と2人の言葉を聞きその場を後にした。
しかし、手分けしてあちこち探し回るもなかなか亮の姿は見当たらない。は組が郊外授業から戻って来ているのならば亮だって居る筈なのだ。何せ時間が限られて居るのだから。

そんな矢先に、やっと見つけた亮。
八左ヱ門の中では急いで連れて行かなくてはと言う思考が働き、つい亮を追いかける形を取ってしまった。そのせいだろう。亮が逃げてしまった。

亮は八左ヱ門に止まれば、自身も止まると言うが焦る気持ちが募る八左ヱ門にその言葉の効果は成され無い。しかし、完全にその姿を消さない亮にまだ手はあると、逆に確信する。

とりあえず、この距離を詰めては亮を捕まえなくては。
八左ヱ門の体力は他の五年生と比べれば、かなり有る方である。今は全力で亮を追うもいつまでも続くか分からない。流石に長期戦まで続けば体力馬鹿と言われる八左ヱ門でも無理だ。
では、どうするか?

手元にある忍具で何とかするしか無い。

そうすれば今懐にある忍具、道具を思い出す。彼は生物委員会委員長代理でもあり、いつ飼育している動物達が逃げるか分からないと言う為の道具。常日頃持ち歩くクナイと言った物。
生憎、合同授業で使った忍具は無い。だが、これで亮を止めなくては。

八左ヱ門は懐へと手を伸ばし、指先に触れたそれをすぐさま掴み取った。先に空く穴に人差し指を通し、クルリと回し手中へと収める。
そして未だに走りつづける少し先の廊下へと投げつけた。
ヒュルリと空気を切り裂く、昼間の日差しを受け黒く輝く。投げられたそれは速度を落とす事なく、八左ヱ門が目指す先へと飛んで行く。
廊下目掛けて投げた為にそれは徐々に降下する。このまま行けば亮の足元ギリギリに刺さり、僅かな足止めが出来る筈だ。

しかし、亮相手に上手く行く訳が無かった。
亮は突き刺さるで有ろうそれ、クナイをひらりと交わしてはそのまま走り出す。
速度はそのままであり、落ちる気配が無い。

やっぱり、これだけでは意味が無いか。

次なる手を。

と、揺れる薄桜色のそれを瞳に捉えた時だった。亮が走るであろうその先の廊下。廊下は一本道で有り脇へと伸びる別れ道は無く、有る一定に伸びれば左へと角を曲がる。

2人が走る廊下は丁度庭へと直ぐに飛び出る様に作られている為、先の廊下、曲がり角先にいる人物の横顔が八左ヱ門の瞳に映り込んだ。


このまま行けば、亮はその人物と当たるのか確実だ。
八左ヱ門は空気を吸い込み大きく叫んだ。







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