謳えない鹿2 | ナノ



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それに対する理由性すらも理解出来ないのなら、それは死んでいるのと差ほど変わらない。

生きたいと言う本能に洗脳され、最後にみるのは哀れな死に方。
こんな世界に居る限り、いつ殺されるか分からない恐怖に怯え背に追われる圧迫感に押しつぶされてしまうかもしれない。

しかし、その日が来る迄。

私達は誰よりも優れた忍にならなければならない。得る全ての物が役にたつこの学園で。

あと「  」で、私達は………



















夢が途切れた。


急激に覚醒した脳内をフル回転させた俺は、すぐさま近くの暗器を掴み取り立ち上がる。
荒々しい息は胸の鼓動と同様に耳障りで、額に滲み出る汗がかなり鬱陶しい。
周りの音に耳を澄ませ、部外者となる存在を追うがどうやら誰も居ないらしい。
こぼれる舌打ちに耳を傾ければ、近くの木々から此方へと降りてくる雀達が膝元に集まる。
チチと鳴く雀達は俺の気を知らずに勝手に戯れているもんだから、どこかイライラするものがこみ上げてくる。しかし、もともとやる気のない自身が雀達相手に怒る姿は酷くシュールであり、他者から見れば痛い人間だろう。


ああ、変なもん見た。


いまだに戯れる雀達を無視する俺は、起き上がっていた体勢から仰向けになり再び瞼を閉じた。









* * *




午前中の授業を無事終える事が出来た。
廊下を歩けば彼方此方で忍たまの姿がチラホラ見受けられる。すれ違い様に今日の食堂のメニューや授業の内容等が聞こえてきた。
俺は授業で非常食の作り方の授業があった為、今は満腹感で昼食を取る事はしない。試食をかねた授業だったが受けたいと思える授業ではないのは確かだった。
蝗(いなご)と言った昆虫類の非常食であり、それをどう調理し美味く作るかなんて言う内容はできるだけ思い出したくない。

忍者食もそうだけど、それが尽きた場合その場しのぎの非常食が意外と精神的にきたりする。しかし、逆にそれでお腹が長く持つ事に変わらないから、仕方ないとしか言えない。

今日は委員会の当番もないし、特にこれといってやる事がない。

何をしようかな?

適当にぶらついていた最中で、暇を余していた俺だったけど、どこからか聞き慣れない何かが耳をくすぐる。


歩いて筈の足は止まり
静かに耳を澄ませば、それはどうやら風にながされる様に此方まで流されてきた様子。

しかし、どこから?


気になった俺は音だけを頼りに廊下を進む。
忍たまが行き交う廊下から外れ、其方へと向かう途中で人気のない場所なのだと後になって気が付いた。

でも、逆にその何かがある楽器の音色だと理解した時には、それを弾く人物の姿が俺の瞳に映り込んだのは同時。

鮮明な薄桜色と五年生の制服。

ベベンベンと弾かれる音は三味線独特のもの。
偶にその音色の中に混じる何かが砕ける音が、ちょっとだけ不自然だったけどそれほど気にするものでもない。

始め不釣り合いな2色に始め目がチカリとするも、見たことのあるその組み合わせに俺はつい、あ!と声を上げてしまった。

勿論、それを弾いていた五年生の指が止まるのは当たり前な話しであり、振り向くのも予想通りでしかない。縁側に座っていた五年生はその白い指をピタリと止め、俺へと視線が向けられる。



「(あの五年生だ)」


食堂内で遠巻きに見た事がある噂の五年生。
本来一つ上の学年の先輩でありながら五年生へと飛び級した噂は、未だに二年生の中では途絶える気配がない。どうやって飛び級をしたのか?やはり成績が優秀だから?それとも忍術がずば抜けているから?

友達の左近の話しでは、とても優しい雰囲気である。と、そしてもっと話しをしたかったと楽しそうに言っていたのを未だに覚えていた。
第一印象のせいだろう。怖いかな?なんて思っていたけど、どうやら違うみたい。

先輩は前髪越しに俺を見ているのだろう。ふわっと緩やかに結ばされた笑みと同時に沸き立つ雰囲気に、俺は浸ってしまう。


『はじめましてですよね?』

僅かに首を傾げるその仕草は、上級生にはちょっと不釣り合いと思うも彼がやると違和感がなく不思議だ。


『五年は組の亮と言います』

「二年い組の能勢久作です」


こんな格好でご挨拶なんて……。と、口元を隠す仕草は大人っぽいと思える。

「いえ!俺が勝手に邪魔しただけなので……」


本当にその通りだ。俺が声を上げなければ先輩は三味線を引いたままであり、変に謝る事はない。何だか申し訳なく感じどこか居辛い。
しかし、先輩は気にする事なく笑ったままであり、元三年生とは思えない。


『能勢さんは、昼食はお食べになったのですか?』

「いえ、受けた授業でお腹は膨れていて。先輩は?」

『僕も今丁度満腹なので』


だからこんな人気のない所に?
でも今の時間帯は丁度休み時間だ。自由行動は各自それぞれ。
でも、話題で気になっていた先輩がすぐ目の前に居るのにも関わらず、此処でサヨナラをするのが何だか勿体無い気がしてしまう。もしかしたら左近の言う通り、優しい先輩かも知れない。

「あの、亮先輩」

『はい?』

「先輩の話し、聞かせて下さい」

『…………僕の。ですか?』



先輩を困らせる後輩なんて最悪かも知れない。だけど、先輩の前の学園や、飛び級したその才能に憧れる俺達二年生は先輩から色々聞きたい。
今後の参考になるかも知れない。

すると、亮先輩は小さくクスクス笑う声が耳へと入ってくる。
俺、変な事いったか?
そんな疑問が沸き立つが亮先輩は答えれる範囲であれば。と、座っていた場所から少し横にズレた。
そして、どうぞ。と笑う先輩。


「良いんですか?」

『ええ、眠くならない様に努力してみますが』


また笑う先輩は相変わらず柔らかい雰囲気。五年は組はほんわかは組として有名だが、あのクラスとはまた違った暖かさがあるみたい。
俺は失礼します。と亮先輩の隣へと腰掛ければ、先輩は俺の居ない反対側に弾いていた三味線を静かに置いた。



「何が聞きたいですか?」


色々。

でも、いっぱい有りすぎる今の俺頭の中。
なかなか上手く整理されない疑問の中からひょっこり現れた言葉を、俺は静かに紡いだ。

















「先輩の居た学園。そこの二年生ってどんな感じなんですか?」

































100712

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