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風が吹いた。
同時に頬を掠めた何かがくすぐったく、むずむずした感覚により「 」の目は覚めた。
徐々に覚醒し脳内が感じたのは背中の違和感。それは床か何かだと理解してきたと同時にいつの間にか倒れていたのか?なんて呑気に考えながら「 」は静かに起き上がった。
その瞬間に視界に映り込んだのは黒い線。
線?
何故線が其処にあるのか分からない「 」は、静かに腕を伸ばせば指先に触れたのは鉄独特の冷たさ。
「鉄格子?」
零れた言葉と共に弾け生まれた世界は黒と白の境界線で、その間には灰色の何かが蠢く。
幻想的で有りながらもどこか毒々しい、意味の分からない世界に気持ちが悪くなる。
だが、そんな世界の中に生まれた新たな存在に「 」の意識が無意識に向けられる。
それが一体何であるかが分からない。その原因はきっとそれらに纏わりつく靄のせいだろう。しかし、何かが可笑しい。そう気付いた「 」の目の前で、何かが伸ばされたのが見える。
あれは一体なんだと目を細めれば、伸ばされたそれは向かいに居るそれに何かをしている。としか見えない。
いくら目が良くともあの靄や距離が邪魔をし、はっきりと見る事は出来ないだろう。
そうしている中、伸ばされた何かが向かいの何かから離された。
一体何が起きたのだろうか?
そんな中、何かを取り囲んでいた靄の中から映えた色がこぼれ落ちた。
「っ?!」
それが人の形をしていて見た事のある人間で「 」の目が見開いた。
伸びた薄桜色が宙を舞いその瞬間にバタリ!と鈍い音を立て床に倒れたのだ。
顔は此方に向いては居ないものの、あの姿は「 」しか当てはまらず、「 」は目の前の鉄格子にしがみついた。
「 !!」
名を呼べど、倒れた「 」はピクリとしない。
そして同時に何かを取り囲んでいた靄がゆっくりと晴れていくのが瞳に映る。
ぐるぐると回りながら晴れる靄。そんな靄の中に唯一捉えたのが、狐の面を被る人が居た事だけだった。
其処で「 」の夢は途切れた。
了
101012
【色彩編2.完】
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現86-総86