謳えない鹿2 | ナノ



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クナイを片手に持ち、掌の中で弄ぶ俺は目の前で行われている2対2での合同授業中。

カチリ!バチリ!と擦れ合う鉄同士の錆び付いた音と同時にこぼれるのは、小さく儚い火花。
今はまだ日が高い為時折鉄の間から生まれる火花は、辛うじて肉眼で捉えれる程度。
きっとこれが夜だったら綺麗に違いないだろう思う俺は、回転を止めパシリとクナイを掴んだ。

同時に目の前で攻防戦からお互いの名前を呼び掛け後ろに三歩後退する双忍の姿で、跳びかけた思考が此方へと引き戻される。


今日の授業で使用武器は棒手裏剣にクナイ、八方手裏剣の3つのみ。一人づつ持たされたそれだが、それらを奪い取り戦意喪失させるのが今回の内容。

どのような方法でも構わない。

とりあえず相手に勝てばいい。



そんなを木下先生の口から出た時には、ざわついた生徒もいたがやはり五年生と成って来れば様々な実習を行ってきている。勿論その内容がどんなに難しくきついものであるか。
数をこなしていく度に、無理難題な事を言われ様と耐性がついてくる。僅かなざわめきはろ組からのもの。授業に真面目ない組の中には驚く様子の者は居らず、逆に先生が伝えようとする内容の意図を探っている。

何故2対2なのか?
何故その三種類の武器しか使ってはいけないのか?
そして組むであろう相手と自身の相性。
そこから来る自身の立ち位置について。前か或いは後ろか?
それとも二人で一緒に?

自身の名が呼ばれる前にと、考える事は沢山ある。
勿論それは、隣に居る兵助や俺にも言えている事。
組む相手は兵助か?それとも、ろ組の誰かか?

目の前でいまだに攻防戦を繰り返す4人から視線を外す事なく、頭の片隅で黙々とイメージを湧かせる。

棒手裏剣とクナイ、そして八方手裏剣

殺傷能力の低い八方手裏剣と、同等のクナイ。いくらこの2つでトドメを刺す事が出来る忍具といえど、棒手裏剣の殺傷能力と比べてしまえばかなり低い。
となれば、だいたいの生徒は此処で棒手裏剣を使い、挑んで来るがそれではこの合同授業の意味がない。

棒手裏剣が2に対し、この2つはそれぞれ1の様なもの。しかし、2個組み合わせれば2になり棒手裏剣とは互角なる。
2対2の武器に対し相手も2人。
相手方双方が使用する忍具によって此方の使うものを変えなくてはいけない。

もし相手が棒手裏剣を使って来れば、此方がどんな組み合わせで立ち向かうか?考え所でもある。
そもそも棒手裏剣と八方手裏剣は飛び道具。
普段は投げる。と言うが本当の使い方は『突く』が正しい。
いつから『投げる』と言われるようになったかは分からないが、本来有るべき2つの手裏剣の『突く』攻撃で手を考えるのが妥当に違いない。
言葉通りに手裏剣である2つを投げてしまっては、自身を守る武器及び相手を屈する為の道具がクナイ一本になる。

先生は言った。『どんな方法でも』と。
その言葉の範囲がどれくらいなのかは分からないが、きっとこれも隠れた課題に違いないのだろう。

関節を外す迄か否か。致命傷を与える迄か否か。


考えれば考える程意外に奥が深い事を実感させられる。
俺は雷蔵では無いが確かにこれは悩む。

チラリと隣の兵助を盗み見すれば、やはり俺と同じ事を考えいるみたいで眉間に皺がよる。こびり付く鉄の音が、どこか遠くに聞こえるような錯覚はきっと己の思考に深く浸かっている証拠だろう。

双忍の2人が見せる動きは息がぴったりで、その間に垣間見える独特の戦術はとても参考になる。
双忍と呼ばれる雷蔵と三郎にしか出来ない技だからこそ勉強にもなるし、近い形で自身も動ける様に工夫してみたいと思った。


すると、兵助がふと、目の前の4人の攻防戦から俺へと振り向く。
何か考えついたのだろうか?そんな考えが脳裏を掠めた時と同調するかの様に、俺の隣に遣ってきていた彼の存在に俺は静かに顔を上げた。




「よ!」


手をひらひら振るかれの姿。しかし、彼の存在は兵助の中では最悪なものでしかないに違いない。
現に、刺の含まれる視線が俺を通り越し彼へと向けられている。
すると、彼は落ち着けよ久々知。なんて笑うのだから彼の心理が分からない。



「どうしたんだい?」



いまだに無言なままの兵助に変わり、彼へと質問すれば彼は聞きたい事が有るんだ。と、呟き隣へと座ったのだった。

彼は以前亮君の私物を盗んでいた張本人である。話によれば年下の亮君が可愛いらしくつい、私物を盗ると言う変質者極まりない行動に出た本人。

亮君との接点はどこにもない。と、犯人本人が言っていたが。亮君が編入してきた初日の組み手の授業。は組と和気あいあいする様子、そして、課題実習中に見かけた彼の姿にキュンとした先があの事件だと言う。

亮君や心配するは組のみんなだけではなく、兵助までにちょっとした被害を加えた。
主に精神的な面で。

その為か、兵助はあまり彼を好いていないみたい。








「あいつ大丈夫なのかよ?」

「あいつ?」

「亮だよ」


今度は何をするつもりか?ジト目で彼を眺めれば今回は違う!と慌てて手を振った。今回はって……何?






「あいつ、倒れてないよな?」

「倒れて?」

「編入してから少したつけどさ、あいつたった五回しか行っていないみたいだから心配でよ。
勿論、遠巻きでは有るが様子みる限りフラフラしても居ないし、何かを喰ってる様子もない。
は組の奴らに聞いたんだけど、今のアイツ等俺の話しを全く聞いてくれない位に落ち込んだ感じだから上手く聞けずに居てよ。
もしかしたら、尾浜と久々知なら知ってんじゃないかと俺は「わっ!タンマタンマ!」あ?」

いきなりペラペラと話し出す彼に俺の脳が追いつかない。
倒れてない?五回?
彼の紡ぐ言葉の意図が読めない。



「お前、さっきから何言ってるんだ?」

隣の兵助もやっぱり分からないみたい。
怪訝な顔付きで俺越しに少し身を乗り出せば、彼あれ?知らなかった?と首を傾げた。



「俺はてっきり承諾済みかと」

「だから何が……」

「亮が飯を喰ってない事」

「「?!」」




ご飯を食べて居ない?



「何でい組のお前がは組の亮の行動を知ってる?」

「え?!!ああ……その、まぁ。
やっぱり俺、亮の可愛さにキュンキュンしているのが止まらなくてよ、気が付いてたら行動を追ってたと言うかなんと言いますか………」


あは、ははは!と吹っ切れたように笑う彼はきっと、開き直ったに違いない。
でも、よくよく彼の行動を思い返してみれば、亮君がい組の廊下前を通り過ぎたと同時に視線で追い、開いた扉の中から姿を消した時には扉へと駆け寄っていく背中が確かにあった。

まさにストーカー行為。

しかし、だからこそ、彼の言葉に偽りが見当たらない。
常に亮君を追っている彼が言う台詞には、何故か信じても大丈夫だと感じる。

俺は兵助へと視線を向ければ、確かに食堂で亮を見ていない。と、小さく呟く。


何故、亮君が食堂に行かないのか。











俺は詳しい話し聞くべく、隣の彼へと問いただした。





















了100710

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現10-総86

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