謳えない鹿2 | ナノ



 

ガヤガヤと相変わらず騒がしい中終えた食堂内での朝食。

これから座学の授業が始まると言う時間帯、教室へと戻って行った一人の生徒は己のクラスへと入るなりげんなりとしてしまう。
それはクラスを包み込む雰囲気からか、教室内へと一歩踏み入れた途端に肩にかかる重石に次の一歩が踏み出す事が出来なかった。

教室内に割り与えられた長机。
うなだれる様に崩れるのは五年は組の諸君等だった。
そんな彼がうなだれる長机。五年生が使うと言う事もあり、机には長年このクラスを使用していた先輩方がつけた古傷が未だに痕を残していた。
角が少しかけた机や明らかにクナイや手裏剣が刺さったものなど様々。

勿論中には思春期ならではの少年達が描いた歪な女性の裸体などの落書きが書き残されて居るも、このクラスに編入してきた彼の年齢を考え悪影響だと判断した彼らは今まで放置してきたそれを綺麗に拭い取ったり新たに塗りつぶしたりと様々な事をしてきた。

だけど、今、その編入生とは組を取り囲む空気は重いもの。
何故そうなったかなんて知る者などこのクラスにはいない。
誰もが疑問にそして不安に抱くそれを晴らす為、彼等が気にしていたその本人へと声をかけようにもやはり避けているのかそそくさと姿を眩ます。

もしかしたら自身達は編入生に何か気に障る事をしてしまったのでは無いか?
だが、これと言って事が思い浮かばない。
授業の内容がどこまで進んでいるのか、1日の詳しい流れに、特別教室の場所、それこそこの学園の全てに関する迄のことを教えてきた。
その度にありがとうございます。と柔らかい笑みで言われるお礼は嬉しく……、

しかし…。



「ハァ…」



席に戻った彼は重いため息を吐いて見せた。
肘を着き徐に向かった視線の先には誰もいない。
背が高く窓際の席だと決められた其処には、普段この時間帯になれば必ず姿勢正しく座っている薄桜色の姿がある筈。

しかし、その編入生が彼等は組を避ける様になってからは、其処にいる筈の存在はない。
いつも授業が始まるギリギリ迄このクラスに来る事がない為、声をかけようにも振り向いた時には既に居らず。だ。
前に何度も早朝と言う事にも関わらず編入生の部屋に出向くも、勝手に開いた襖の先はがらんとしていて物が一つも置いていない事もあり、その雰囲気を更に醸し出していた。

早朝に出向いても部屋に居らず、ならば今度は委員会が無い時間帯にと向かう。
やっと捉えた薄桜色。そして対峙する様に見慣れたろ組の生徒。様子からすると、彼が編入生と会話していたらしい。
今度こそ!と思い一歩を踏み出した瞬間に編入生は彼の存在にすぐさま気が付き、瞬時に姿を消した途端に涙が溢れ出したのがわかった。

膝を尽きながら廊下の上で泣いたその声に驚いたろ組の生徒、不破雷蔵が駆け寄ってきたのは知っている話しだろう。


そういえば、と、ふと彼は思い出す。

昨日、いつもの様に同室者の布団の中で泣いていた彼だったが、同じは組のクラスメイトの登場に彼は驚いた。
息を切らせて慌てて現れた友達に、何かあったのかと問えばろ組の鉢屋三郎からの伝言。と聞いた瞬間に眉間に皺が寄った。

でも、聞いた内容に彼は耳を疑う。
一瞬それを聞いた彼は唖然とするも、またその内容を友達へと聞き直したのだ。



そして思う。
それは、本当だろうか?と−ー。





そんなことを思う彼にふと声がかかる。

隣、良いですか?

と……。







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