謳えない鹿2 | ナノ



 ▽

「なぁ、亮は居るか?」




ひょっこりと覗いた先は五年は組。


阿保のは組ならぬほんわかは組と言われるクラスに、僕と八はきていた。

勿論最初は三郎も一緒だったけど、先生に呼び出しを食らいあえなく欠席。後で何かあったら教えてくれよ?と立ち去っていった三郎の顔つきはどこか楽しそうで、面白い事が起きないか?なんて期待するものだとわかったのは僕だけだろう。

全く、そんな場合ではないと言うのに。




亮君はご飯を食べていない。
よくよく考えれば食堂に彼の姿を見たのは数回しかなくて、今になって僕は亮君を心配し始める。
最近になって彼とは少し話す回数が増えた。(様な気がする)彼が食堂に入ってきたあの日からの対面、図書室でのやり取りに私物紛失の件。
ざっとみた限りでは関わった回数は酷く少ない。だけど、紛失事件に手を貸した時、裏で動いていた僕は亮君とささやかな話しに花を咲かしていた。

この学園はどんな感じに思った?やっぱりおかしい学園だと思う?
などを。

その問いに彼は面白い学園だと。みんなが伸び伸びしている暖かい学園だと。言う。
たったそれっぽっちだけでは有るが、彼との会話は楽しいものだと僕の中で抱かれていた。
もっと亮君と話をしたい。

そんな考えの矢先に知った一つの物事。

彼の様子には全く違和感がなく、むしろ普段通りの雰囲気を纏う姿に僕は自身に失望する。

上手く隠していたのだ。

この学園にいる限り食堂のご飯を食べる以外に、他に食べ物を調達する先なんてない。
市にいったとしても生徒達が手にする事が出来る銭の金額なんて、ほぼ限られている。大金なんて持ち歩く事が許されていない為でもあるが、何よりまだ子供である忍たまが目立つ様な事をしてはいけないからだ。

大金を持ち歩けばそれなりの銭の音もするし、高い品物又は大量の品物を買う姿は酷く目立つ。
だから、お団子類といった少ない小銭しか持ち歩けない。

そんな小銭でいままでの食料を買い込む事は不可能。亮君がこの学園にきた時の荷物を聞けば、その中にずっと腹を満たし続けるものはないのだと明らか。
だからこそ、彼が平常で居続ける事に不安が募る。

いつ、倒れても可笑しくない。

なぜ食堂に行きご飯を食べないのか?理由を聞かなくてはいけない。



八が近くのは組の子へと声をかけた。
すると、彼はいきなりびくりと派手に肩を揺らして僕達へと振り向いた。彼は亮…?と口端をひくりとさせる様子は、明らかに不自然。八もそれに気が付いているみたいだけど、そのまま続けたみたい。


「そ!亮に聞かなきゃならない事があってな」


その八の台詞に相手の子の視線が宙をさ迷う。
えっと…亮。亮に用事が有るんだよな。などとあからさますぎる彼の動揺に、無意識に眉間に皺が寄るしかない。

何で彼は、こんなにも動揺して居るんだろうか?

隣にいた八と視線が会い、何か悪い事言った?俺?と言わんばかりの表情で首を傾げる。
その場にいた僕も、八が不適切だと思える言葉は発していないのは聞いていた。
と言う事は、八自身が原因ではない。

は組で何かあったのかな?



「その……亮は、………居ない」

「居ない?まだ教室に戻ってきて居ないって事か?」

「……多分」

「多分って、おいおい」


意味分かんねーよ。
八が困った様子で頭を掻く。それでも彼は、居ない。としか呟かないのだから可笑しくて仕方ない。


あまりの違和感に僕はは組教室内へと視線を滑らせた。

相変わらずは組は友達同士で雑談をしているものの、どこか肩を落とすかの様にみえどんよりとした雰囲気が教室内の天井に淀む。






あれ?

ここ、ほんわかは組だよね?



自身の目を疑った僕は一歩下がり、教室前の立て札を読む。




「(五年は組)」





やはりは組だ。




八は、居ないなら良いや。ありがとさん!と笑い僕も一緒にお礼を言う。
彼は普段視線を泳がせ、ああ…。としか言わない。


すると、同時に鐘が鳴った。
確か一時間目の授業はい組との忍具を使って合同授業。一旦教室に戻って忍具を取りにいかないといけない。
八が僕の腕を引っ張れば必然的に足が動く。最後にじゃ。と手を振るも彼の視界に入っていないのかため息をついていた。本当に何なんだろう?

そんな疑問が湧いたと同時だった。は組の後ろの教室に探していた人物がいた。彼は勘右衛門と何か話をしお互いに手を振る。
そして、勘右衛門が振り向いた瞬間に此方に気づき、薄桜色の彼がは組へと入ってしまった。

八、亮君が……


腕を引っ張る八へと視線を向けた時には既にろ組の教室内へと入っていた所で、五年生の廊下を勘右衛門が走っていく姿が目に映る。
勘右衛門がろ組の扉前を通り過ぎた時に、また授業で……。と唇が静かに動く。


勘右衛門、さっき亮君と……


彼に聞こうとした台詞。
だけど、彼はそこにはもう居らず、既に自身のクラスへと向かってしまった後だった。

















100708

prev / next

現9-総86

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -