小説置き場 | ナノ






「それじゃあ、一昨日からこっちに?!」

私の左右を目に見えない速さで抜き去って行く幾つもの建造物と人、同時に痛々しいだろう風が私へと襲いかかってくるだろうがそれを遮るヘルメットのおかげで痛みに耐える事は無くなった。
しかし逆に、ごぉごぉと鳴り響く風は私達の会話を遮る騒音となり、それよりも上回る大声で話さなければ成らなかった。


『ああ』

「何で連絡くれなかったのさ!電話の一本入れてくれたら、手伝いに行ったのに」

『電話はしたぞ!』

落ちない様にと捕まる幼なじみの背中、昔はあんなに小さかったのに今じゃ見違える程成長したその姿は久々に再会し今でも胸の高まりを上げる要因でしか無い。
そんな事よりもだ。
電話をしたって……。
可笑しな私は一昨日家に居たのに電話なんて……

『あんたの母さんが出たんだよ』

「?!」


ああ!分かった!
母さんの事だからきっと彼に無理言って、ギリギリ迄私に会うなとかそんな事を言ったに違いない!
母さんはよく彼の話を持ち掛ける度にニヤニヤするし、私はただの幼なじみだろ!と言った所で「あら?美味しい設定じゃない」なんて意味の分からない台詞吐くし……
別に私はた…ただの幼なじみとしか思って居ないし…それにそんな風に言ったら彼にも迷惑をかける訳にもなるし…
彼だって彼女が出来た時に幼なじみの私と…ほら、変な噂とかあると仲が悪く成りかね無いでしょ?
私は私なりに彼の事を思って……


「別に想っての方じゃ無いんだからな!」

『は?』




バイクに跨る私と幼なじみ。運転をする彼は何か言ったか?と此方を伺って来る。
私は急に恥ずかしくなり、何でも無い!と返せば、彼はそう。とだけ言い再び前を見る。

幼なじみと最後に会ったのは低学部一年生の頃の修学旅行。
豪華客船内での再会だった。彼と私は親ぐるみでの付き合いで、気付いた頃にはずっと一緒に過ごして居た。しかし、父親の仕事の都合と言う事で、彼は大川学園に入学する前にその姿を消す。
しかし、不思議な事に私達は直ぐに再会した。それが先に言っていた修学旅行。まさか、彼がその客船に居たなんて予想もしなく、私は凄い喜んだ…いやだからそれは幼なじみとしの喜びで……。
つまり、久々の再会だった訳だが、彼は何故か不機嫌だったのを今でも覚えて居る。
何でも嫌々ながらの参加だって、彼は言っていたかな?

「(私は楽しかったんだけどな……)」

久々に彼にも出会えたし新しい友達も沢山出来た。
私に取っては良い思い出。

それから数年経った今。彼とまた会う事が出来た今日、私は伊作の不運に巻き込まれても文句は言わない。それ位私は嬉しかった。
だって、寝坊して慌てて外に飛び出たら幼なじみが、バイクに跨りながら久しぶり。なんて……

「(恋愛ゲームじゃ無いんだから……)」

まるで、食パンくわえた女の子が道角から飛び出てきた男の子とぶつかる。みたいな感じ。
久々に見た彼は昔よりもたくましい体付きになって居り、男子の標準身長より一回り大きく背が伸びていた。昔から付けていた医療用の眼帯ではなく、革で作られたかっこいい眼帯をしている。
オプションにバイクとか……

「(カッコ良すぎでしょうに……)」


耳に開けていたピアスが光っていたのを思い出す。
ピアス穴開けたんだな……。


チラリと見上げた先にはヘルメットをかぶる幼なじみ。
学園迄送ってやる。
と言った時には、唖然とした私だったけど正直に言うと彼の申し出には助かった。
これで遅刻する事も無くなったし、数年振りに彼にも出会えた。


「(今日、早く授業終わらないかな……)」


委員会も無いし、早く授業が終われば幼なじみと沢山話が出来る。


「(穴場の喫茶店とかが良いよね……)」


私は授業を終えた後のスケジュールを、脳内で静かに組み立てていく。
その最中、この先曲がるぞ、気をつけろ。
と気遣ってくれる声に紳士的になってる。なんて思いながら彼に再びしがみつく。


















110619



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