小説置き場 | ナノ

絹の様な滑らかなその感触は、触って居る方である此方がくすぐったいと思える程に線が細く細かな輝きを放っていた。
白銀に輝く先端にはまるで春の名残を感じさせる薄桜色が姿を表す。しかし、某は彼女に似合うと思う。
そんな彼女の髪の毛に触れるのが某は好きで、こうやって三成殿に預けられた彼女の髪の毛を結ぶのが日課と成りつつあった。
彼女の髪の毛は某と酷く似ていて、異なる点と言うならば地まで伸びた後ろ髪と言う所だろう。
変わった髪型をしている彼女の髪は始め髪紐で結んだ所で異様に伸びて居る長い束がある。
某はそれを長い布で巻き付けて再び髪紐で止める、と言う工程を今正に遣っている最中だった。

「痛くないで御座るか?」

そう問えば、正座して此方に背を向けている彼女から、大丈夫です。と柔らかな声が返ってきた。
彼女の大きく成長した背中を見る度に、某だけ置いてかれた様な気がして成らなかった。
始め彼女と対面した時は某の膝にも及ばない身長しか無く、今や病でお亡くなりになられた竹中殿の足元によくしがみついていたのを覚えいる。
竹中殿の白色の髪の色に、銀色の彼女の髪は酷く似ており始めは兄妹かと思われたが竹中殿は残念ながら違うと笑って居られた。

その時の彼女は人見知りで、豊臣殿方の人間にしか慣れていなかった。
外の世界を知ると言う事で彼女はよく竹中殿に連れられて居る所を見かけて居たが、その度に兄様(あにさま)と泣いていた。
そして後に彼女の兄上殿が三成殿だと知った時はかなり驚いた。
しかも彼女は豊臣軍忍頭の長でもある。

歳は2つしか違わない筈なのに何故か彼女は背丈が高く、三成殿と共に居る姿は双子では無いのかと間違えてしまう程だった。
それくらいに成長した彼女は稀に大谷殿や三成殿の命により、こうやって上田城へと遣ってきては寝泊まりすると言う不思議な事をしている。
理由は分からないものの大谷殿曰わく、凶を上手く避ける為だと言われている。同時に彼女には某と佐助の2人しか会わない様に厳しく告げられている。

勿論此には違和感を抱くものの、彼女はすんなりと逸れを受け入れている。
『兄様のお考えがあってこそです。僕はそれに従うだけです』
と穏やかに笑う様子は仲の良き兄妹そのものだ。稀に長宗我部殿の元へ行くのも三成殿の命あってこその時だけ。

きっと三成殿は彼女を囲っておられるのだろう。何かからは知らぬが徳川殿に反旗を翻された思いが有るのか、酷く彼女を大切にしているのが分かった。
いくら彼女が忍頭の長と言えど兄である三成殿の命に背く事は出来ない。それに話を聞けば、彼女が不在の時はどうやら佐助が手助けに入っているらしく、その辺は上手く行っていると聞く。

そんなことを考えていれば彼女の髪を結う作業はいつの間にか終わっており、なんだか寂しいと感じている自身を知らぬふりで通した。


「できたで御座る!」


某がそう言えば、彼女はその細い指で某が結ったばかりの髪の毛を撫で背中越しに笑ったのが分かった。


『相も変わらず、真田さんは器用で御座いますね』

「否、貴方のだからこそです。自身のばかりはどうしても上手く行きませぬ」


紡ぐ様に言った途端に、背を向けていた筈の彼女はいきなりその体を反転させては某へと向き直る。相変わらずの早業に某が唖然として居れば、彼女は柔らかな笑みを浮かべ某へと言葉を紡いだ。


『では、今度は僕が』















昔から穏やかなその笑みは20歳を超えた今でも変わらない。
姿形が変われど、何一つ変わらない彼女の笑みに某は小さく頷いたのだった。























101120


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