小説置き場 | ナノ

「しかし、主は本当に面白い奴よの」
「やっぱりそう見えますか?」
「自覚は有るのか?」
「佐助さんにも言われましたよ。今まで見たことないって」
「此処では皆そう思うものよ」
「そんなに可笑しいですか?私」
「可笑しいも何も、医者でもない若造に詳しい医学の知があり、且つ忍の素質を持つ者など我は初めて見とうたわ……」
「医学の事はともかく、忍だなんてそんな……。私はただの医者に違い有りません。素質をしかもそれが忍だと言われては嬉しく有りません」
「ヒヒ、そう嫌がるでない。あの忍にも言われただろう?それならば、相手方に間者として潜り込めるだろう。と」
「確かに言われましたが、それでもこの知識を私は人の命を救う為に使いたいんです。忍なんて……命を摘む事に使いたくないです」
「知りたいとは思わんのか?」
「きっと知ったら、こうやって大谷さんの薬を調合出来なるかも知れませんよ?」
「それは困るよの…」
「でしょ?大谷さん専属の医者が居なくなったら……」
「いや、そうでは無くの…」
「?」
「主が記憶を取り戻し、真田の元から去れば怒り狂い奴が一人居ってのう」
「怒り狂いって……何ですかそれ?」
「我の友人よ」
「友人……えっと…………石田、さん。ですか?」
「何だ、奴に会ったのか?」
「いえ、遠目ですが………」
「ならば、この際言っておこう。あやつを裏切る様な事だけはするでないぞ?」
「何ですか、それ……」
「主が記憶を取り戻し、主の主君である真田から離れ東軍に付くような事になれば、形的に我ら西軍を裏切ったとなる。
今は石田軍と真田軍と同盟を組んでいる。故に真田を裏切れば当然石田軍をも裏切った事になる故」
「裏切るだなんてっ!!私は!!」
「まぁそうカリカリするな。我はあくまでも忠告がてら主に話しただけよ」
「………」
「あやつは裏切りを許さぬ。それが例え、真田軍に最近拾われ、記憶のない軍医だとしても」
「大谷さん、嫌みですか?」
「何だ……記憶が無い事がそれ程迄に枷か?」
「違います。記憶が無いからこそ、私は今こうやって大谷さんの薬を調合出来て居るんです。逸れを投げ出す位の記憶ならば私は思い出したくない」
「若いのによう言う」
「誰が言わせたんですか?」
「言ったのは善法寺自身よ」
「もう!そうやって私をからかわないで下さい!」
「ヒヒ、これも我の唯一の楽しみよ」
「そんな事を言うのでしたら、特別に苦い物を薬として差し出しますよ」
「主も随分黒くなったの」
「そりゃ、大谷さんや佐助さんとお話していたら耐性位付きますよ」
「して、其方はどうよ?」
「ええ…お館様の様態は変わらずですが、真田さんと佐助さんが上手く支えて居ますので今は問題は無いかと」
「それは安心した。せっかく同盟を組んだ真田が崩れては意味が無いからの」
「其方はどうなんですか?」
「其方とは?」
「凶王…えっと…石田さん。
彼、ご飯を食べてないと話を聞いて」
「あれは飯に興が湧かないだけよ」
「駄目ですよ!ご友人ならちゃんと食べさせないと!!」
「我が言った所で聞かぬ」
「だからって」
「その変わりが居る故に、問題は無かろう」
「変わり?」
「ああ、あれの言葉にならあの三成も嫌とは言わんだろう」
「ご友人ですか?」
「あれは、友人では無かろうな……」
「?」
「気にするな軍医。いずれあやつにも会えるだろう」
「あやつ?」
「三成がこの世で唯一頭の上がらぬ存在よ」


























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