百合籠 | ナノ


きゃっきゃっと目の前でボールを追いかける同級生の姿を眺めていても全然楽しくともなんとも無い。
ボールを追いかけるあいつらと一緒になって校庭を走りたいとどこかで思う反面、俺達はいつか立派な忍者になるのだからあいつ等みたいに生ぬるいお遊びごっこをしてるべきでは無いのだと俺は自分に言い聞かせる。

だってそうだろう?

俺達はいつか大人になり仲間だと思っていた相手と、いつかは対峙しなくてはならない。
そんな時に昔の情なんてものがチラつけば、直ぐに済むはずの任務は敗北又は命を散らすと言う結末で決着がつく。勿論、此方か向こうかは分からない。
だから俺は一年生である今の時点から、仲間と言う存在を作ろうとは全く考えて居ない。足枷になるのだと分かり切っている。

だから思う。

あいつ等本当に忍者になりたくてこの学園に入ったのか?と。
他の奴らと遊びたければこの学園では無い、余所の村や集落のお友達と遊んで来れば良い。そう思うと、どこかイライラした感情が胸をいっぱいに溢れ出す。

俺は本物の忍者になる為にこの学園へと入った。お前には向いていない。お前の様な子供に何が出来る?散々両親に言われてきたその言葉が俺の中で追いかけ回る。
喧嘩早い短気で使えない性格。物覚えの悪い頭。忍者には不向きすぎる。忍者には合っていない。

「………」


思い出すだけで本当にイライラする。

手に持っていた忍たまの友を、俺は無意識に握りしめていた。
時である。
目の前で遊んでいた奴らが蹴ったボールが、空高く跳びクルクルと弧を描いた。遊んでいた奴らもそしてそれを木の幹に座って眺めていた俺も、その先へと跳んでいくボールを一緒に見つめる。

何回転かしたボールは風に煽られ、俺が座っていた木の上へとガサリと乗っかってしまった。
ボールで遊んでいた奴らは遣っちゃったな……と遠巻きに眺めてるだけ。もし、此処に先輩達が居たら木に登ってあのボールを取ってくれるかも知れないが、どこを見渡せど其処には先輩達の制服の色は見当たらない。

まだ入ったばかりの一年生が高い木の上に乗ったボールを取りに行ける訳は無く、内心ほら見ろ。遊んでいるからこうなるんだ。と笑って見せる。
だが、ふと不自然な影が木々の間を通り抜けた事に俺は気が付いた。
その動きは俊敏で居て、まさか先輩?と思い視線を上へと見上げれば、細い木々の枝に足をかける見覚えのある姿が其処に居た。

「(っ!アイツは……)」

自己紹介でい組の連中一人一人前に出て名前を名乗った時だ。
アイツは教卓前で片言で自己紹介をした時は、一瞬にして教室内はざわめいたのだから。


「(野沢…雅)」


一年生の制服の上から遊女みたいなチカチカする着物を着ては、その素顔を晒さないと言わんばかりに狐の面を着ける可笑しな奴だ。
始めは只単に注目を浴びたい目立ちたがり屋かと思ったが、ここ数週間はずっとあのままの状態。クラスの奴の何人かが雅の面を剥がそうとしたが、まるで本物の忍者の様にスラリとした身のこなしで相手を回避する。

何度も何度も挑むが今とて誰もその奇妙な面を剥がした奴は、一人たりとも居ない。


どこからともなくいきなり現れた野沢は、引っかかっていたボールへとその短い腕をちょいちょいと伸ばせば下から心配そうに見上げるあいつ等に気が付いたらしく軽く手を振ってみせる素振りをした。

余裕からの行動なのだろうか?それとも只のバカか?

そんな野沢を俺は静かに見上げていると、その指先にボールが触れたのが俺の角度から見て取れた。すると、野沢はそのまま指先でボールを押し出せば、重力にひきつられる形で地上へと落ちてきた。

ボールは遊んでいた一人の元へと上手い具合に落ちて来る。慌ててキャッチしたそいつは野沢へとありがとう!と返せば野沢は枝に腰掛けてはまた手を振った。
そいつ等はボールが戻って来た事が嬉しいのか、また向こうへと遊びに戻って行った。


「………」


それを見送っているのだろうか?野沢は膝を付いたまま、プラプラと足を宙でばたつかせているだけだった。




「お前!」


未だに木の上に居る野沢へと声をかければ、何?と言わんばかりの仕草で俺を見下ろしてはコテンと首を傾げた。


「お前は……」


続く筈の言葉がなかなか上手く出て来ない。
自分で声をかけて起きながら何だか情けないと思ってしまう。
でも、自分でも分からないが声を掛けられずには居られなかった。


お前は……

ふと再び影が揺れた。
そして、気が付いた時にはさっきまで居た筈の野沢の姿は其処には無く、只の大きな木が風に煽られ葉を揺らめかせているだけだった。







「…………」










遠くで、またあいつ等が楽しそうにボール遊びをする声が、俺の耳へと届いた。

















100604
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テーマ「人外ファンタジー」
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