百合籠 | ナノ



他のみんなには内緒。



何が内緒なのか?それは私と野沢それから大木先生に保健委員長の4人しか知らない内緒の決め事。
野沢君が医務室に行きたがらない理由、彼がいつも顔に付けていたお面が壊れてしまい外へと出歩きたくないから。医務室だけじゃない食堂にも教室にも行きたくないんだって。そう委員長が言ってた。

前々から思って居た。
何で野沢君はお面を付けて居るの?って…。
物知りの委員長なら知ってるかも知れない。だから私は聞いたんだ。
そしたら委員長はこう言った。

「大きくなったら教えてくれる筈だよ」

って……。
今はまだ小さいから、心の準備が出来ていない。だから伊作、気長に待ってあげな。そう言った委員長の顔はどこか寂しそうで、何だか泣きそうで……ああ、委員長を困らせてしまった。ごめんなさい委員長。と、私がしがみつけばいっぱいギュッてしてくれた。


そんな中、野沢君の怪我は段々と良く成ってきていた。委員長に付き添いながら、私は野沢君の治療に励む。委員長に教わりながら彼の包帯を替えたり、切れた傷跡を消毒するの繰り返し。時々、消毒液をつけた綿が傷口に触れれば野沢君が直ぐに暴れる。でも隣には委員長の姿、委員長は暴れる野沢君を簡単に押さえつけてしまうのだから本当に凄い。
顔の半分を隠すのは一枚の手拭い。鼻の上からすっぽり隠された野沢君の顔は全く見えず、どんな目の色をして居るのか分からない。でも、野沢君が動くたびにチラッと見える手拭いの影、其処に傷跡があったのを私は何度も見ている。
もしかしたら、手拭いの向こうにも傷を負って居るんじゃないか?
だったら大変!早く消毒してあげないと、傷跡が残ってしまう。そう言った私が治療道具を手に取るも、委員長に止められる。
どうしたの委員長?早く消毒しないと……見上げた先に居る委員長。
委員長は必要ないよ。って、私が持っていた道具を静かに取り上げる。
『アレは彼が今まで負って生きてきた証拠なんだ。それを消してしまっては、その証拠を消しかね無いだろ?』
それに、
彼は顔を見られるのが嫌いだろう。
伊作は野沢に嫌われたくないだろう?
顔を覗き込んで来た委員長から視線をそらし、離れて座って居る野沢君を見る。

野沢君は、いやいや。って首を振るんだ。
そっか、顔の傷に触れちゃダメなんだね。

御免ね。野沢君。私、君が嫌がる事をしようとしていた。
すると、ポンポンと頭を軽く叩かれる。
気が付いたら其処には野沢君が居て、『気持ち、のみ、俺、幸運』と言ってくれた。
そして今後は野沢君にギュッてして貰った。

委員長の時も嬉しかったけど、野沢君のギュッは凄く温かく胸がポカポカするんだ。
手を繋いで小さく握れば直ぐに返してくれる。

他に痛くない?そう聞けば、『伊作、治療、お陰』そう言ってくれた。

誰かの為に……。
こんな私でも、誰かの為に、友達の為に役にたって居る。
そう思った瞬間に、もっともっと知識を得よう。
野沢君の怪我を早く癒せる、治せる為の知識を…。

私はそう胸に決めた。


















110621
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