百合籠 | ナノ


会計委員会を見に行こうよ!



パタパタと私の隣を横切ったのは同じ一年生。見たことのない一年生二人がは組の子じゃない事に私は安心した。
ふと、目の辺りがムズムズしてきた私は右手でムギュッとさすってみれば、皮膚から感じる小さな熱にまた赤く成っちゃったかな?と思う。昨日は同室の子食満君に連れられて気が付いたら私達は制服のまま寝ていた。
着替えは有るけど、出来るだけ汚したくない私に取って溜め息しか出ない。理由は制服を洗濯しに井戸場へ向かえば、同じクラスの子の陰口が耳へと届いてしまうから。
だから、あんまり外に出たくない私は、今も同じ一年生を怖がってしまう。

後ろから上がった楽しそうな声、私は無意識に振り向いて居たみたい。

一人はモサモサした髪を結い、隣を歩く子の手を引いている。どんな会話をしているのか、此処からじゃ聞こえないけどなんだか楽しそうな雰囲気だってのが分かる。
遠ざかる2人の背中を眺めて居た私は、良いな…。と零す。

友達。と言えるのが存在しない私には届かない願でもあり、叶わない思いだと思う。は組の中での成績は最下位、手裏剣だって未だに上手く持てない私は切り傷が絶えない。人見知りもするせいか話すのも出来ない。カミカミの台詞に初めて話し掛けたあの子も、変な子。と言い残して姿を消した。

そういえば、と同室の食満君を思い出す。
あの子には情けない姿だけじゃなく、迷惑迄かけてしまった。
食満君とは話らしい話を一度もした事が無い。部屋が一緒だから他の子みたいに同室者同士での会話がしてみたいなんて思うけど、食満君はそんな素振りを見せない。
無愛想。って言うのが合ってるのかな?でも、一人でいる所を見ると、何だか怖い顔をして手をギュッとする姿しか見ない。
忍たまが嫌なのかな?
勇気を振り絞って私から話し掛けてみたいけど、少し怖くてそんな事は出来ない。

今部屋に戻ればきっと食満君が居るんだろ。

昨日の今日だから顔が合わせ辛い。

今回の件だって食満君を変に巻き込んでしまった。謝らないと………。
洗ったばかりの顔をパシンと叩いてから、私は止まっていた歩みを再開しようとした時だった。





「お?お前さん保健委員だよな」

「?!」



いきなり掛けられた言葉に驚いた私は、ヒッと小さな悲鳴をこぼしてしまう。
びっくりしながらも声がした方を見上げれば、大木先生が襖から身を乗り出しながら私を見下ろす。ど根性で有名な大木先生だが、私は先生と一度も会話した事は無い。
いや、だって大声出されるのは嫌いだし……
そんな私の思いなんて知らない先生は、私が保健委員だと知っていたらしく「間違え無いな?」と詰め寄って来た。

本人はそんなつもりは無いだろうが、詰め寄られた私はあまりの険相に怖くて頷くしか無い。
そして、「お前に看て貰いたい奴が居る」と、首根っこを掴まれた私は先生が出て来た部屋へと放り込まれてしまった。

ポイッと部屋に入れられた私は少し暗い部屋に目が成れてないせいか、薄暗い室内に恐怖を抱く。
そして、大木先生は「悪いが急用が入ってな、後はお前さんが遣ってくれ!」とだけ残して部屋を出て行った。

残された私はどうすれば良いのか分からない。
遣ってくれ?保健委員だからと言う事は誰かが居るのかな?
私は未だに成れない視界で、恐る恐る後ろを振り向く。
後ろに居るだろう相手は襲ってこないよね?噛み付いて来ないよね?そっと体を動かした途端に、ガタタン!っていきなり音が鳴れば誰だってびっくりするよ。
だけど、善法寺?と聞いた事の有る声で私はバッと振り返る。


「野沢君!」


まさか野沢君が居るとは思わなかった。びっくりした反面、また会えた!と喜んだ私は彼を呼ぶ。
だけど、振り返った先に居た彼を視界に捉えた瞬間、私は言葉が詰まった。




「どっ…したの!その傷?!」


酷い切り傷が捲られた制服の袖から見える。首筋や手の甲に伸びる赤い線は間違い無く刃物によるもの。
ゾッとした。
足の指から頭の先っぽ迄冷たく感じて、胸がドクドクと五月蝿く鳴る。
傷だけじゃない。
いつも被って居たお面が付けられていない。でも、変わりに鼻筋の上から頭の天辺迄を手拭いで結ばれて居る。すっぽりと素顔を隠された野沢君の姿。

でも野沢君は野沢君で首を傾げながらぐるぐると腕に包帯を巻く。
そこで、同じ箇所だけ巻かれていく包帯に気が付いた私は、傷付いたその手を慌てて止めに入ったのだった。











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