百合籠 | ナノ


医務室に連れて行った事なんてうろ覚え程度にしか頭に無く、でもその中でまだ記憶しているものと言えばバタバタと目の前で慌てふためく保健委員とそれをテキパキと指示する委員長の姿位だった。

運び込まれた野沢は相変わらずぐったりとしていて、俺と仙蔵の力で支えてやらないと立って居られない位に力弱くて胸の奥底がグッと詰まった。

新野先生は不在で今野沢を見れる人は保健委員会の人達しか居なかった。六年生の先輩が指示するそれを呆然と見ていた俺達だったが、いきなり肩を叩かれ驚いた俺が振り返った先には見たことの無い先輩が其処に居た。
何故か目の下には青い隈が刻まれていて、でも俺へと注がれたその笑みは穏やかなものでしか無かった。


「此処に居ると保健委員の邪魔になる」


治療は己がやろう。


そう言って顔を上げた先輩は医務室内に居る六年生へと声をかけては、俺と仙蔵の手を引いて医務室の隣の部屋へと連れて行かれた。

唖然としていた仙蔵は何も言わないまま先輩に手を引かれ、その最中での俺は今一体何が起きたかなんてさっぱり分からなかった。

ただ、見たことの無い先輩に連れられて、気が付いたら座布団の上に座って居て目の前で先輩が救急箱を開けて色んな物を出す様子をじっとみているしか出来なかった。

そんな中で先輩は黙々と治療の為に消毒液を綿へと染み込ませる。
そして、それをソッと仙蔵の頬へと当てれば、仙蔵がいたっ!と声を挙げた。勿論それに先輩は我慢しろ。男だろ?と言いながらそのまま治療に当たる。

殴られた頬が大きく赤黒く腫れて居て、肌が白い仙蔵には凄く似合わない色合い。
今になってドンドン腫れてきたらしく、まるでたんこぶが頬に出来た位にそれは膨らんで居る。
でも、其処で俺は仙蔵の違和感を感じ取った。

つい作業迄泣いていた筈の仙蔵の涙が不思議な位に止まっている。
何時泣き止んだかなんて知らない。ただ、気が付いたらそうなっていて、俺はじっと治療されていく仙蔵を観察するしか無い。
仙蔵もだが、この六年生も観察する為に視野に入れていた。
いきなり何かするのではないかと……仙蔵や俺を油断させて置いて本当は………

そんな事を考えて居ると、突然隣の部屋から人の声が上がった。
壁一枚越しに居る俺達だから、突如として上がったその声に仙蔵と揃って一緒に声を上げてしまう。

でも、そんな声すらもかき消す隣の声は保健委員の人達のモノでしかなく、同時にバタンと何かが倒れていく音を新たに生み出していく。

壁へと叩き付けられるものや、保健委員の止めろ!とか抑えろ!と言う言葉が何故出て来たのかその時の俺にはさっぱり分からない。
だけど、隣に座って居た仙蔵が野沢?と掠れた声で名前を紡いだ途端に一際目立つ音がなった。


その瞬間、バタバタバタ!!と、まるで向こう側から壁を一気に叩きつけた様な音が俺達の体へと振動を寄越す。
だけど、少しだけ間を空ければ、まるで何も無かったの様に隣の部屋が静まり返ったのが分かる。

終わったのか?
そう思い、音を立てずにソッと隣へと耳を傾けた。

物音らしきものが全く聞こえなくなったその瞬間は気持ち悪い位に静かで、同時に先ほどの騒ぎが嘘の様にも感じられた。
でも、それを打ち壊す様に新たな声が上がった。

「野沢!!」

「っ!」「?!!」






バタン!!

再び此方へと衝撃が伝わって来た。
今度の衝撃は壁からでは無く明らかに襖の方からだった。そして続ける様に床越しに騒がしく走って行くそれが何か分からなく、様子を見てくると席を外した先輩を確認した後に仙蔵が野沢の名前を呼んでいた事を俺の耳は拾っていた。

























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