百合籠 | ナノ


不運委員会の委員長の席に座る俺の友人は、いきなり何を思い立ったのか偶々医務室に居た俺へと言葉を投げてきた内容に唖然とする。因みにその内容とやらは「俺様の可愛い伊作が危ない!最上!てめぇ暇だったら探してこいやこのショタペド野郎!!」だ。(うん、まずどこから突っ込んで良いか分からない)

俺は高く結んでいる髪を揺らし、は?と振り返れば、丁度、五年生の用具委員である後輩が委員長である南部から治療を受けている最中。
俺は委員会の後輩が委員会活動中に怪我をし、医務室迄送りにきていたのだ。しかし、いきなり意味の分からない事を言い始めた友人に、ちょっと新野先生読んでくるわ。と言いかけたのは此処だけの話だ。


「何だよ南部、いきなりビックリさせるなよ!
後輩が驚いて居んだろうが」

「五月蝿い!それよりも今は伊作だ!さっさと探しに行ってこいや!!」

「だから何でまた……」


と言いかけた所で俺は思い出す。
保健委員会保健委員長六年は組、南部。別名不運委員会と言われているこの委員会には何故か作法委員が掘った蛸壺や体育委員会委員長が掘り起こした塹壕に落ちるジンクスがある。
しかし、他の委員会委員長とは比べ様の無いくらいの「感」の鋭さがある。

勿論それをハマる罠の回避能力として使って欲しいのが友人としての願いだが、何故かそれを回避能力としてでは無く自身の周囲のみとしてフル活動される。そしてその感はの9割方がピシャリと当たる。
しかも今回の内容はどうやら最近保健委員会に入ったばかりと聞く後輩一年生。以前、野沢が助けて欲しいとお願いして救助したあの一年生。

俺が立ち上がれば南部は多分、近道辺り。とだけ言う。

キョトンとする用具委員の後輩の頭を撫でた俺は、医務室から出ては直ぐに庭へと飛び出た。


庭の土を踏みつけすぐさま跳躍。
風が耳元でビュウビュウ鳴り、着ている忍装束が激しく音を鳴らすのが分かった。
近くの木の枝へと飛び乗った俺は隣の木へと跳んでは、また次の木へと移り変える。
南部の言っていた近道辺りとは、多分あの医務室へと向かう為の近道の事だろう。
この学園は広く教室から教室へと移動するのに時間がかかる。しかし、この学園で六年生も生活していればどこにどんな近道があるのか分かるし、むしろその近道を使って教室移動をしなければ間に合わない授業だってある。
そしてその数ある中にある近道の中で、何故俺が其処だと一番に浮かんだのか?
まぁ、なんと言うか……これも感なのだ。
それに六年もあいつとクラスメートであり同室して居れば、僅かな言葉の中に隠れている意図を直ぐに読み取れる。嫌でも理解できると言う事だ。

あいつが言っていた嫌な予感。
もしかすると同学年の奴らが伊作にちょっかいを出したのかも知れない。
以前、一年生に酷い仕打ちをしたらしい同級生が居た。その一年生がどんな奴かは知らないが、何でもそいつ等はその一年の忍装束を破り棄てたと言う。
友人である六年ろ組の体育委員長であるあいつからから話しを聞いた俺は、すぐさまそいつ等への元へと殴り込みに向かった。しかし、そいつ等は自室には居らず何故か医務室に横たわって居り、体中酷くズタボロで気絶をしていた。

それを慌ただしく治療する南部と五年生の姿を、俺はただ唖然と見てる事しかなかった。


もしかすると……


そんな思いが一瞬脳裏を過ぎる。
目を回し治療される同級生達の傷跡。
それは遠い昔に見た事のある傷跡に酷く似ていて、一瞬彼を連想した途端に直ぐ近くで鳴ったかすれた音により思考が現実へと引き戻された。

一体、何だ?と振り向いた時には其処には何も無くもしかして、俺の気のせいか?と思った時に再びかすれた音を耳が拾う。
釣られる様に其方へとまた振り向けば、小さな影が木々の中へと紛れ込んで行ったのが分かった。

まさか?


急いですぐさま後を追った所で、木々を塗っていた影は直ぐに地上へと降りた。そして同時にその場へと鳴り響いたのはくぐもった声だった。


「!」


音を立てる事なく木の上に着地した俺は、直ぐに身を屈ませ緑の中へと姿を隠し気配を絶つ。
葉の間から見えたのは先ほど俺が追いかけていたらしい影、一年生の野沢そして南部が心配していた伊作だ。そして、伊作に背を向けた野沢の向かいに居るのは……



「(っ…あいつら!)」



初めは葉で良く見えなかったが、身を乗り出した先に居たのは同じ六年の同級生。
一人は手をかばい一人は唖然と立って居る。しかし、2人は現れたのが一年生だと分かるとヘラヘラした様に笑い出す。



「何だ、誰かと思ったらお面チビじゃないか」


目を細めて笑う六年は明らかに野沢を舐めきっており、見下した様子に俺は腹が立った。
伊作へと視線を這わせれば、伊作は涙を流しながら野沢を呼んでいる。
すると野沢は直ぐに伊作へと振り返っては何やら喋って居る様子。この位置から何を言っているのかは分からないが、伊作は野沢から何かを聞いた後はゆっくりと後ろへと振り向く。
そして、耳を塞ぎたいらしくその小さな両手を耳へと動かす。だが、伊作が耳を塞ぐ前に新たなあの鈍い音が鳴り響いた。


「!?」


伊作へと意識が向いていた俺の視線は直ぐに原因となる方向へと向けられる。同時に伊作の小さな悲鳴が上がるもそれをかき消すかの様に再び音が生まれた。

音を生んだそれは同級生の左頬から。
そして、それを生み出した原因は野沢の回し蹴りだった。
野沢はそいつの頬を蹴り飛ばしては宙をさまよう腕を掴んでは足場にし、踏み台として活用し小さく飛んだ。そしてすぐさまその隣にいたもう1人いた六年へ襲い掛かる。
だが、伊達にこの学園に六年も在学はして居ない。襲い掛かる野沢に体が無意識に反応したのか、懐からクナイを抜き出した瞬間に俺は飛び出そうに成った。
一年生相手になんて物を?!
こちらも無意識にクナイを抜き出していたが、それを使う事は無かった。

野沢が早く行動に出たからだ。
野沢はクナイを取り出した六年の腕を両手で掴み、その勢いを使い下へとぶら下がる。人はそれに対して行う行動は2つであり、ぶら下がった重みに対して体が沈むか態勢を崩すまいと踏ん張るのどちらかだ。
そしてその六年は後者らしく一気に踏ん張ったのが分かる。しかし、野沢はそれを気にする事なく勢いを殺す前に宙ぶらりんに成っていた態勢を、一気に起きあがらせた。
それは弧を描くように体を回し、目の前の六年の顎に下から蹴りを入れた。

ガツン!と、骨へと響いたであろう音が新たに生まれる。

下からの打撃に視界がチラツいているらしいのか、足元が酷くふらついていた。もう1人の先制を受けた奴は口の中が切れたのか、口端から赤い滴が僅かに流れ落ちている。



「こいつ!!」「下級生の癖に生意気な!!」




一年生相手に本格的に構え出した同級生達。
流石にヤバい。
此処は直ぐに俺が混じり止めるべきなのだろうが、何故かその場から俺は動き出す事が出来なかった。



「(……っ)」




まるで、本物の獣の様にグルグルとうなり声を上げた野沢が背を低くし構えだした。

その背中が昔の彼に酷く似ていており、短く結われたその髪が揺れる度に胸の中が酷く締め付ける。






目の前で同級生が野沢とやり合う中、俺は眺める事しか出来なかった。
理由は何か?
俊敏に動く一年生の動きに驚いてか?
後輩を虐めていたらしい同級生が、一年に制裁を受けているからか?
それとも…………















もう1人の一年生がやって来る迄、野沢はずっと六年生への攻撃を止めはしなかった。






















100909
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テーマ「人外ファンタジー」
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