百合籠 | ナノ











「うっ!!うああああ!!」





「(?!)」






聞こえたそれは明らかに悲鳴で、しかも男独特の太いものだった。
偶々近くを通りかかって居た俺は、すぐさま周りを見渡すが悲鳴を上げたであろう本人の姿がどこにも見当たらなかった。一気に体に駆け巡る緊張感が足を縫い付け、その場から動き出す事が出来ない。

ドッドッド

まるですぐ耳元で心臓の音が鳴るかの用に耳障りな中、俺は動かない足を放って周りへと視線を世話しなく巡らせる。
でも、所詮一年生でしかない俺が出来る事なんて限られている為、これ以上の成果を得る事すら出来ない。
先輩達の様に気配を察知する事や、悲鳴が上がった先の方角を一発で聞き当てたりなんて無理な話だ。それでも、あの悲鳴は確かに俺の耳にへと届いたのは間違えでは無く、幻聴と言える位に自身の耳は逝かれてはいない。
阿保のは組。と言われている俺達だが、俺だって夜遅くまで裏山で鍛錬しているんだから。



「てめぇ!一年生のくせ…ぐ!ギャ!!」

(!!!)


自身の思考に浸かっていた最中、また上がった悲鳴は案外と近かったらしく縫い付けられて居た足を動かすきっかけにもなった。
俺はすぐさま足音を立てない様に茂みの中へと潜り込めば、茂み越しに何だかバキバキと不思議な音が鳴る。

怖いと言った感情よりも、原因をしりたい。
と言う探求心からか、俺はその場から離れずに徐々に近付いていく。


「や!やめろ!!」

「俺達が悪かった!だから、ひ!ギャァァ!」


近付くに連れて重なる声と同様に鈍い音が鮮明に聞こえてくる。
そして、同時にそれが人を傷付ける音なのだとわかった時に、胸のあたりがぐしゃぐしゃに成った。でも、手は相変わらず茂みを掻き分け、更に更にと近く。
すると、ふと、その中に混じる不釣り合いな音を新たに拾った俺は、不思議に思い茂みの中から僅かに顔を覗かせる。

そして、同時に目に映り込んだ光景に俺は言葉を発する前に、体が勝手に動き出していた。

茂みから出た俺はそのまま一直線にそいつへと駆け寄れば、そいつは嗚咽をこぼしながら両耳を手でいっぱいに塞ぐ。



「おい、大丈夫か?」

「え゛っ…ふぇ……ぇ…」


そいつは俺と同じクラスで同じ部屋の奴。名前は確か伊作で、委員会決めの時に誰よりも一番に保健委員会に入った変わった奴だった。
でもそいつは背を向けたまま両耳を塞ぎ、ずっと泣いてばかり。
一体何が起きてるのか分からない俺は、また上がる悲鳴に釣られ後ろへと振り返った。

そして、また目を見開く。





「止めろ止めろ!俺達はただ新しい保健委員の一年生を見に来ただけで」

「そうだ!そいつが勝手に転けただけで、おっ俺達は何も……」



尻込みしつつ後ろへと下がるのは、2つの深緑色の制服。勿論それが六年生のものだと分かって居ても、あまりにもズタズタな格好に本当に六年生かと疑いたくなる。
そして、そんな六年生へとジリジリと詰め寄る背中は小さく、俺と同じ背丈である事に俺はまた驚く。




一年生だ。水色に模様の入る制服は一年生しか居なく、その腰元に巻かれる色が一瞬目をチクリと刺激する。
何だ?
こんな奴、一年に居たか?と思考を巡らせるも目の前の光景は相変わらずで、そいつが新たに一歩を踏み出せば2人の六年生が息を飲むのがわかった。


「頼む、本当に……本当に、もう手を出さない!」「アイツ等の二の舞はごめんだ!だから、だから!」

「本当だな?」

「「!!」」


今度は俺の隣から上がる声に2人の六年生が驚く姿が、瞳に映り込む。
驚いた俺は自身の隣に居る存在を見上げれば目の前の六年生と、同じ制服の色が風によりばたつく。


「確かに俺が聞いた。
もし、それでも手を出すようならば……」


隣に居た六年生がそう言った途端に、足元から頭にかけてゾワゾワと沸き立つ変な感じを俺に襲いかかる。
同時に、息がうまくできなくなり目の前がぐらりと揺らぐも、頭の上に置かれた何かが揺らめく視界を正常の物へと映り変えて言った。
すると、隣に居る六年生の言葉を理解した2人が何度も首を振れば、先輩は手を払う仕草をする。
同時に尻込みしていた2人は直ぐに立ち上がっては翻し、その場から立ち去って行った。




「全く、南部の奴が嫌な予感がするなんて言うもんだから来て見れば、その通りなんだから」


困ったもんだな?
なぁ?一年生?

隣に居た先輩は俺を見下ろしながら困った様に笑う。そして頭の上に置かれていたのはどうやら先輩の手だったらしく、そのままぐしゃぐしゃに撫でられた。



『善法寺!』



背を向けて居たそいつがやっと此方へと振り向いた。だけど、その顔にはお面が付けられて居て俺はまた驚いた。しかし、伊作の名前を呼んだそいつは俺達の脇をすり抜けてはしゃがみこんで居る伊作へと駆け寄る。


『善法寺、無事?』


伊作の肩へと手を添えれば、それに気がついた伊作が顔を上げる。
そしてお面の奴を見るなりいきなり飛びついては、ワンワンと大声で泣き始めた。


俺はいまだに目の前の現状に追い付かなく、ぽかんと立っている事しか出来なかった。

だけど、隣に居た先輩は「此処からはお前の出番だな」と、意味の分からない言葉を残して姿を消したのだった。


















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