百合籠 | ナノ


誰か?

ふわふわした浮かんだ世界。

そんな中、頭の中で一番に思い浮かんだのが野沢だった。
同時に不安定な体から伸ばされた腕が宙を漂う中、ゆっくりと触れる様に私の指先に何かの感触。
閉じていた目を開ければ、狐の面が其処に有って私の指先から掌へとしっかりと捕まれた。


また、見つけてくれた。

その野沢が私へと声をまたかけてくれたのが嬉しかった。






あいつに見せる姿は毎度毎度(と言っても、まだ二回目だけど)酷く情けない姿で、正直私は恥ずかしかった。

見られる度に泣きっ面な私でしかなく、ちゃんと自分の足でカッコ良く野沢の前に立つ自分がどこにも居ない事に気付けば更に自己嫌悪に陥る。

クラスにいる時でも、唇を噛み締めて周りの視線を我慢する。隣には同室者の文次朗が立っているものの、空いた片方には野沢の姿は無い。

周辺を見渡せば、後ろの隅っこにちょこんと立って居て、まるで後ろから全体を眺めている様にも見えた。

本当は隣に居て欲しく、手を振って野沢へと声をかければ良いのだろうが、其処にはい組のクラスメート。 と言う存在が私と野沢の間に壁を隔て、上手く声を出す事が出来なかった。

隣では、それに気が付いた文次朗がまた、次があるだろ。と声をかけて来るが、私は今が良いのだ!と、足を踏んだ時がある。

文次郎が良い奴だって分かっている。いつも舐めてかかるクラスの子達を怒ってくれたり、私を慰めてくれる。
文次郎の台詞は確かに暖かく嬉しい。だけど、それとは別の温もりを欲して私は手を伸ばすのだ。
その先にあるのは紺碧を靡かせる背中。
いつも背中を向けていて、困った時に此方へと振り向いてくれるアイツの背中。両手をいっぱいに伸ばしても届かなく、アイツが気付いて手を伸ばさない限りは触れる事が出来ない。

名を呼ぼうにも上手く口が動かない。


野沢、野沢。と胸の中で何度も呼ぶも聞こえる訳がないんだ。
だから余計寂しくなる。
何も無い時に振り向いてくれないアイツに。

たった、数回しかアイツから手を差し伸ばしてくれなかった。
だけど、その数回程度が嬉しくて嬉しくて私はアイツに縋るしか出来ない。
本当はひどい奴かも知れない。だけど私はアイツに縋るしか頭に無いんだ。

手を繋いで、その温もりを直に感じて、隣に居てくれる安心感を得る。

そうしないと、今にも消えそうな自分が居た。

自身を支えるのは文次郎と野沢。





もう、この2人が居ればいいや。







そう思い、思考が沈みそうになる。
だけど、そんな時でも野沢が手を伸ばす姿が見えた様に感じた。

3人しか望まない世界に沈む中、すくい上げる様に手を伸ばすそれは小さい。


なぜ、手を伸ばすのか?
それが明らかに野沢の物だとわかっているが、掴みたくない。そんな感情が私の中で生まれた。


背中を撫でる感覚がした。
少し嗅ぎ慣れたそれが鼻を擽り、私は足を引っ張るその海へと思考を沈ませた。







頭上で野沢の声が聞こえた様な気がした。























100818
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