玉響 | ナノ



「私の権限では予算を調整出来ないのよ。っと言う事で……」


お淑やかに笑みを浮かべては、口元を隠してはクスクスと笑うその姿は女なんだな。と改めて実感させられる可愛さだと思った。
華奢な体つきなのにも関わらず、今私の目の前にいるくの玉六年生の彼女はくの玉体育委員長だったりする。足も早いしなによりその細腕で私よりも長い塹壕を掘るのだから女の子とは本当に不思議な存在である。

彼女はでは、私はこれで。と綺麗に一礼すれば艶のある長い髪を靡かせては後輩のくの玉達を連れ奥の長屋へと消えてしまった。

私はしばらくその背中を黙って眺めて居たが、隣から滝夜叉丸の声によりとりあえず現実へと思考が引き戻される。ふと、滝夜叉丸へと視線を写せば、先輩…。と困った顔で私を見上げている。

ああ、分かって居るさ。もしかしたらくの玉体育委員長にお願いすれば何とかなるかも知れない。何せ彼女は忍たま六年生にも人気がある、くの玉らしくない女性としてモテていたりするのだ。気が優しく何より後輩想い。と言う事からだろう。

私は彼女には手を借りた時も有ったし、てを貸した時も有った。それはお互いの委員会の為であるからだ。
だが、そんな彼女でも出来ない事があった。
仕方ない。
意を決した私は、《彼女》が居ると言う場所へと滝夜叉丸を連れて向かった。


















『寝言は寝て言え』


鼻であっさりと笑われた挙げ句に、バッサリと一刀両断する言葉の刃は多分七松先輩の胸を斬りつたに違いない。

桃色の制服は明らかにくの玉のものではある物の、身にまとう空気自体は威圧的としか言えない。
昼時を過ぎて、あと少しすれば午後の授業が始まる鐘が鳴ると言う時間帯だった。静かにお茶を飲んでいた彼女の向かいに座るのは、忍たま体育委員会体育委員長である七松先輩と後輩である私の2人である。
噂でしか聞いた事のないくの玉会計委員会会計委員長、海棠院峰。別名、女帝。と呼ばれる彼女を今初めて真正面から見る事が出来た滝夜叉丸の心臓は、今にもはちきれそうな位に鼓動が早く鳴り続けていた。

六年生平均身長のくの玉よりも背が高い彼女は、忍たま六年生と同じ背丈である。

それだけならまだしも、肌に突き刺すのは押さえられた殺気。下級生ならばまだ気が付く事は無いだろうが、実習を行う数が徐々に増えてきた四年生にして見れば、彼女が常日頃纏う威圧感は殺気であるのだと理解出来る。

でも、きっとこれでも彼女は押さえているらしい。しかも、かなり。と先輩である彼から聞いた時は本当ですか?!疑った。
現に肌が痛いのだ。これで押さえていると言う先輩は、一体どれだけその身に殺気を浴びた事があるのだろう。と思えてくる。

そんな彼女を真正面で頼み込む七松先輩ですら、口端がピクリと痙攣気味だ。


「文次郎には話をしたさ。しかしアイツは体育委員会には予算を一切分けてはくれないのだぞ?!」

『貴様に原因が有るからだろうが』

「だが、今回は更に酷くて困っているんだ!それで、くの玉のアイツにお願いしたら予算は自分は管理して居ないって…」

『当たり前だ。全て私がきっちり管理して居るのだから』


だったら!
と、七松先輩は身を乗り出しては海棠院先輩へとお願いするも、先輩はまるで眼中に無いかの様に湯のみへと手を付けては静かにお茶を啜る。
続けざまに何かを言おうとするも、その瞬間に海棠院先輩の鋭い眼力で睨みつけられてはうっ!と体が凍り付く。
その度に海棠院先輩の纏った殺気がじわじわと膨れ上がるのだ。これを正面からモロに食らう七松先輩はきっとヒヤヒヤものだろうが、それを表情に出さない辺りは流石に最上級生である。

因みに私は息苦しくて上手く息が出来ない。

こんなのが何度も続いてしまえば、四年生と言えど多分私は気絶しては保健室行き決行だろう。


と、七松先輩の一方的な申し出をスルーし続ける海棠院先輩の視線が、ふと私へと一つしかないその瞳が向けられた。


「(!!)」



背筋を湧き上がるのは冷たい戦慄、後にビリビリとした電撃が脳へと届いては瞬時に指先へと届いた。
バチバチと長時間静電気にふれて居る様な感覚が、神経を伝い冷たいそして痛いと言う二言の言葉を生み出した。

息が詰まった。
イヤ、息が出来なかった。

呼吸器官と言える全てが止まった様な不思議な感覚が私を襲い、息の仕方さえ忘れてしまったかの様に頭の中が真っ白になった。




あれ?息が……







しかし、すぐさま海棠院先輩の視線は私から外されては、手元の湯のみへと注がれてはその瞳は静かに細められた。
途端に止まっていた全てが正常化へと戻り、固まった様な胸の鼓動が再びドクドクと音を鳴らす。







『彼女から許可は得たのか?』

「え?!」



今まで黙っていた海棠院先輩の台詞に、七松先輩はおどろきの声を上げた。勿論、私も驚く。



『予算の使用内容、使用理由、使用期間の詳細を書いた書類を5枚以上で委員長であり貴様が提出し、くの玉体育委員長である彼女から同意サイン』

「海棠院?」

『其処からくの玉体育委員会から予算を振り分ける事が出きるか帳簿を計算し直し、可能だった場合のみ一度のみ許可しよう』


ただし、提出期限は明日迄。







初めは、海棠院先輩は何を言ったのかが分からなかった。だけど、七松先輩は直ぐにその言葉の意味を理解したらしく本当か?!
と嬉しそうに笑った。




「良いのか!海棠院?!」

『期限付きだ』

「でも私は嬉しいぞ!お前は駄目だ!としか言わない思って居たからな!」

『………』


七松先輩、海棠院先輩がめちゃくちゃ睨んでいますよ!しかし、本当に嬉しいのか、先輩はニコニコしたままである。一方海棠院先輩はイライラした表情(?)で舌打ちした。



「そうと決まったら、滝夜叉丸!」

「はい!」

「急いでくの玉体育委員長を探しに行くぞ!!」

ガタンと席をたった先輩は賑やかに食堂から出て行ってしまった。
私はすぐさま立ち上がっては椅子を元に戻しては海棠院先輩へと向き直る。



「海棠院先輩、あの……」


だけど、先輩は私へと視線を合わせる事なく、さっさと行けと言わんばかりに掌でしっしっと払う。慌ただしく一礼しては、私は走り去ってしまった七松先輩をおうべく、食堂から出た。


















『余計な事を』

「そうかな?でも、私は良いことした。って思ってる」

『有り方迷惑って言葉知ってるのか君は?』

「良いじゃない、たまには忍たまと戯れる必要だよ」

『変な事吹き込んで、私の元に野良犬を寄越すな。はた迷惑だ体育委員長』

「其方こそ、予算分ける気は無いでしょ?会計委員長」

















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