玉響 | ナノ



「予算が遭わない?」

すらすらと進めていた筆を彼、文次郎はふと止めた。

そんな彼の目の前に悠然と立つのは同室である立花仙蔵彼だった。彼は、みろ、とだけ言っては一枚の紙を出せば、其れを受け取った文次朗は達筆である綺麗な文章に眉を潜めるもそうみたいだな。と小さく言葉を零した。
作法委員会は何かと経費がかかる委員会な為に、小さな予算のずれだけで委員会の活動に支障が出てしまう。それに気がついた委員長である仙蔵は忍たまの委員会の予算を全てを握る彼に抗議をもうし出た。
勿論、委員会の予算をきっちりと配分し考えている文次朗からすれば、こんな些細なミスでさえ彼を苛つかせる原因となる。しかし、と文次朗は目を細めた。

記載されて居るその文章と、自身の近くに置いていた書類の山から束ねているそれを取り出しては一緒に照らし合わせた。すると、彼ははぁと溜め息付けば、仙蔵が何だとつまらなそうに言葉を紡いだ。

「仙蔵、残念だがこの経費は此方の委員会会費からは出せないぞ」

「何だと?」

「作法委員会は女装をする歳に様々な化粧を使うだろう?勿論、各学年の授業で女装をする歳に使うが、お前が請求するこの化粧は授業では使わないし、既に決まっている作法委員の会費では上手く予算が合わなくなる」

「だから何だ?」

「その微妙に合わない予算はくの玉の会計委員長に相談しろ」

「……あいつにか?」

くの玉の会計委員長。それだけを言えば一体誰を指しているのか彼は分かる。六年もこの学園に居るのだ、嫌でも顔は合わせるしその威圧的な存在感は今でも彼の中では拭えきれないもの。無意識に寄る仙蔵の眉間の皺にも気が付かずに、文次朗はそのまま続ける。

「いくらやってもその予算だけでは此方では合わないんだ。理由の一つはくの玉の作法委員会の予算が多いか少ないかによる結果だろう。だが、俺は生憎くの玉の予算資料を知らない」

だから、お前が思い通りの予算が欲しくば、くの玉会計委員長である海棠院に相談しろ。
と彼は言った。しかし、仙蔵はそこで分かった。とは言わない。もし、自身が決めた予算案通りにするのならば、彼女に会いに行かなくてはいけない。彼女ならば文次朗の様にきっちりと与えられた仕事をこなす性格な為、忍たまの作法委員会のずれた予算案を向こうのくの玉の作法委員会の物と照らし合わせては修正をしてくれるだろう。

そう成れば、向こう側の作法委員会で余った予算を少しだけ分けてはくれるし、自身としてはちゃっかり助かったりはするのだが……

だがしかし……


「あの女は好かん」

「お前、まだそんな事言ってるのか?」

「あの高圧的な態度が気に喰わん、何より私を鼻で笑い飛ばす見下した目が嫌いだ」

そう。仙蔵は彼女をあまり良くとは思っては居ないらしい。背丈も男である仙蔵位あるのだが数センチ単位は彼女の方が高かったりする。
そして、くの玉の女帝と呼ばれる位のその堂々とした態度が気に食わなく、彼は何度も突っかかっていくもやはり口がよく回るのが女、最後にはコテンパンに負かされてしまうのが彼、立花仙蔵本人だったりする。

ならば、突っかかなければ良いの話だが、所で言う同族嫌悪だろう。
それが彼の苛立ちを生む原因だと言う話を知らない。

2人の仲が悪いのは上級生の一部しか知らない話。只で冴え忍たまとくの玉はあまり仲が良くない。それを更に険悪にしたくはないと言う上級生ならではの気遣いの一つに違いない。
勿論2人もそれを既に理解しているらしく、あえて下級生の居る前では争ったりはしないものの取り巻く空気は重く息苦しいものだ。
それはこの学園に入学してから今の今まで一切変わっては居らず、文次朗の悩みの種でもある。

いくら相手がくの玉六年生であろうと、彼女は女性。最上級生となった現在は手を上げる事はしないが何せくの玉会計委員長様は石火矢等と言った重い火器を片手で持ち上げる位の力持ちだ。
下級生と呼ばれていた頃から2人は何度も取っ組み合いになり、本気の喧嘩を幾度となく繰り返している。
勿論、今は互いに自重と言う言葉を知ってるが、2人は出来るだけ相手には会わない様にしてるとか……。

まるで、別居する夫婦では無いか。

そんな出かけたセリフを脳裏に浮かび上げた程度で留まり、俺は再び海棠院に話しをするんだな。と言ってやれば仙蔵は持っていた紙を机の上へとバン!と叩きつけやがった。

「私はあの女には会わん!」

「っ!仙……」

「文次郎!この件は会計委員長であるお前がしっかりと片付けろ!で無いと、朝日は黒こげ状態で拝む事になるからな!」

とはっきり言い残し、仙蔵は俺が居る部屋から出て行っては戸をピシャリと閉めた。

しばらく呆然としていた俺だが、また余計な仕事が増えた事に気が付き頭が痛くなる。
叩きつけられた紙を取った俺は、記載されている文字へと視線を向けては見間違えでは無い事を確認する。


「全く、どいつもこいつも……」


乾き始めた筆を墨の中へと浸けさせ、俺はその書類を持っては立ち上がる。
勿論、向かう先はくの玉会計室へと。












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