玉響 | ナノ



「要らなかった?」

そんな事を言った私は隣で静かに佇んでいた彼女は、今の私には使えないだろうが。と、鼻で笑われてしまった。
大切にしてたのに…そんな事を言おうにも峰には峰の思いがあって決めた事なのだから、出かけた台詞は思考の中へと溶けて行った。
外は雨がザーザーと酷く降り、勢いが強いのか廊下へと雨が弾け飛んでくる。それは廊下の壁に背中を預けている彼女の足元へと跳んできては、装束の所々を酷く濡らす。
もやは、びしょびしょになって水を含んでいるに違いないのに、まるで興味がないかの様に彼女は腕を組む。


「風邪ひくよ?」

『自己管理位は出来る』

「信用出来ない」

『されたいなんて、思っちゃいねぇさ』

「もう!」

またそうやって投げやりな台詞を吐く峰に、風邪引いても見て上げないんだから!と腰に手をあて、背丈の高い彼女を見上げればまた鼻で笑われてしまう。

もう少しだけ私が峰より背が高ければ、そのつやつやの髪をポンポンと撫でてみせたのに、どうも峰は同学年のくのたまより頭一つ分大きい。

普通の女の子ならそれはコンプレックスとなるのだが、峰は逆に忍たま達に見下されなくて清々する。とあざ笑う。確かに峰の背丈はクノタマの中では一番に高く、六年い組の立花君と同じ視線でものを言うのだから他人から見れば彼女は圧倒的な威圧感がある。
使えるものは何で使う。それがクノタマ。峰の口癖だった。が、今の峰からはその言葉を聞いた記憶が無い。最後に聞いたのはいつだっけ?私はふと疑問に思い、彼女へと問い掛けようとした所で此方へとやって来る気配に耳を澄ませては静かに溜め息をついた。

『幸せが逃げるぞ』

「今更だよ」

じゃあね。峰。
私は彼女に軽く手を振ってはその場から立ち去った。
同時にまたな。と小さくこぼれ落ちた彼女の台詞をかき消す様に現れたその存在に、私の後ろ姿をみられる事は無かった。

「いた!海棠院先輩!」

パタパタと走り寄ってくる後輩に、海棠院はどうした?と歩み寄れば3人は息を切らしながら彼女を見上げた。

「ちゃんと返さないとって思って」

「私達先輩を探してあちこち回って」

「それで、六年生の先輩が此処にいるかもしれないって」

息を切らしながらも必死に話す下級生に、峰は一瞬呆然とするがそうか。としか彼女は答えない。
そしてやっと後輩達が一息ついた所で、主語となる言葉を述べれば峰は私には必要ないからやったのだ。と言った。

「でも!あの簪スッゴく綺麗でキラキラしていて…」

「そしたら偶々近くにいた四年生のタカ丸さんが、市場でも滅多に出回らない高値がついている簪だって…」

「一般人が手に入れれる品物じゃないって、だから私達…」

「先輩に返しに…」

まるで垂れるかの様にシュンとした3人の後輩に、ついつい口元が綻びそうになる。
目元が僅かに揺れ動く事に気が付かない3人に、峰は気づかないふりをする。そしておずおずと差し出した自身が後輩にあげた三本の簪を掴み取り、くるりと手の中でまわす。
しかし、何を思ったのか、彼女はいきなり持っていた簪を握り締めた。同時にミシミシと軋んだ音を鳴らせば、後輩の3人は先輩?!と声を上げては彼女の腕へとしがみついた。


「先輩!何をするんですか?!」

『いらないんだろ?』

「だからって」

『返されても、私には不要な物だ。だから壊す』

「でも!勿体無いですよ!」

だったら…そう言った彼女は自身の手の中にあったそれを目の前に居る後輩のひとりに強引に押し付ける。そして、めんどくさそうに頭を掻いては静かに歩き出した。

『トモミ、オシゲ、ユキ、使えるものは何でも使え。それがどんな疚しいものであろうが高価なものだろうが、使えるものは最大限に活用しろ』

いつか、それで救われるからな。
そんな言葉を後輩へと残し彼女は、スタスタと其の場から立ち去った。
ヒタヒタと雨によって更に冷たく成った廊下の上を、いくつかの足跡が後を作る。嘘路の方からは、先輩、有り難う御座います!!と元気な後輩の声に、彼女は再び頭を掻いた。








10.05.11
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テーマ「人外ファンタジー」
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