玉響 | ナノ



六年生の潮江文次郎先輩の特徴を一つ上げよと言われれば真っ先に出て来るのは目下の隈。
あの日々濃くなる一方の隈のせいで彼の年齢に疑惑が上がりつつあるのを本人は知らない。まぁ、言った所でバカたれ!!と怒られてしまうのが関の山なので、とりあえず心の中で言ってみる。
そしてもう一人、特徴のある六年生の名を上げよと言われれば、またもや真っ先に出て来るのはくのたま、六年生い組の海棠院峰先輩。そして彼女の特徴は右目の眼帯となんと言ってもあの眉間の皺だろう。

何に対して不満があるのか、海棠院先輩は常に眉間を寄せピリピリとした殺気とは異なる異様な空気を身にまとう。
美しくお淑やかにがモットーのくのたまにして見れば、先輩はそれらから外れている。
そして、女性には不釣り合いと思いがちな眼帯は合わないと思いながら、先輩が振りまく堂々としたその態度に妙に似合っていていて六年生の先輩方よりも、カッコイいのでは無いかと思いがちになってしまう。

くのたま最上級生と成れば同学年の忍たまに比べ、飛躍的に数が少ない。しかし、その分知識や技術に優れ先輩方は六年くのたまだけは敵に回すなと口を酸っぱく言うのだから、本当に気をつけなきゃいけないと思う。

さて、この2人の先輩。潮江先輩と海棠院先輩には共通点がある。
2人共が会計委員長と言う名の肩書きを持っていると言う事。
潮江先輩は忍たまの海棠院先輩はくのたまの。予算会議前や後になると海棠院先輩は忍たま長屋に稀に姿を表す。だけど、それは委員会の予算の集計や合計額などの纏めや学園長への報告書類の為に潮江先輩に書類を催促しに来る用事しかない。

その時はいつも要件だけしか言わず、貰うものだけ貰えば先輩はさっさと出て行く。
他愛もない会話もしないし、潮江先輩から言葉をかけても海棠院先輩は今の要件には関係ないと断ち切っては退散。こんな場面しか私は見たことが無かった。

稀に潮江先輩が提出する筈の書類を忘れていた時には、どこからとも無く大筒を取り出しては躊躇する事無くその矛先を向ける。火器類の武器は男性が持つだけでもそれなりに重いと抱きがちだが、海棠院先輩はそれを思わせない素振りで火器類を片手で持ち上げる。

ありゃ、女じゃないって。ある日同学年の忍たまが食堂でポロリと零した日には、たまたま食堂に居合わせていたくのたま下級生と五年生がフルボッコイに掛かってきたのだから余計な事は言わない方が良いなと学んだ。

海棠院先輩の名はくのたまでは有名だが、忍たまの間では意外と知らされては居ない。
やはりあまり長屋に姿を現さないせいもあるかも知れないが、何よりあの学園1忍者をして居る潮江先輩が太刀打ち出来ない事を知ってるのか誰も彼女の存在を話の話題にする事はしない。

たまたま居合わせたくのたまの報復が怖いからに違いない。

自身が会計委員会に入部してから、海棠院先輩をみたのがまだ二回目だったりする。それもまだ自身が一年生の時と決算の報告書を持って、先輩の居る長屋に足を運んだ時程度。
その度にドゴン!と煙を立たせては仁王立ちしてるのだから、未だに慣れはしない。

それに海棠院先輩は忍たまを見る度に眉間の皺が一層深くなる時があったりする。
下級生ならまだしもそれは上級生にあがるにつれ、不愉快なものだと言わんばかりの表情になる。それ程忍たまが嫌いなのだろうか?と勝手に呟けば何故か神崎が海棠院先輩は照れてるだけですよ!と笑って言う。


待て、神崎。お前いつの間に海棠院先輩と知り合いになった?
お前が一年生の時から来海棠院先輩は会計委員会中に一度も来ては居ない筈だが。いや、理由は何となく理解出来る。大方、迷子になってくのたま長屋に迷い込んだ所で海棠院先輩に発見されたに違いない。

先輩。お手数をおかけしました。

そんな事を思いながら、私はぐっすりと眠る一年と海棠院先輩を追い掛けようと走り込む神崎の腕を引き長屋へと向かった。

勿論、戻り際にはちゃんと潮江先輩を伊作先輩にみて貰わないと。












100430
2/14
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -