玉響 | ナノ



『不器用なんだ。それで友達が出来ないんだと思うの。
だから、君があの子の一番の友達に………』

「なぁ、お前が×××か?俺、○○○って言うんだ。俺の友達に成らないか?」

『凄いね○○○君。あの子がやっと……』

「なぁ、一緒に河辺に行かないか?2人で魚釣りしよう!そんで、おばちゃんと母上がビックリする様な魚を………」

『どうしたの?○○○君、良い子じゃない?
初めてお前と向き合ってくれた………』

「×××は女の子だからさ、もっと可愛く………」

「え?何」

「もう一回言って」

「良く聞こえないよ、×××。」


「ねぇ(なぁ)○○○(峰)ってば………」












目が醒めた。

ふわふわと不安定だった体が、安定感を手にした瞬間に感じたのは指先にある何か。
朧気世界から抜け出した俺は、光になれない瞳を世界へと向けた。ひしひしと感じる刺激に一旦瞼を閉じ、全てを和らげては再度開ける。ぼんやりとしたそれが一体何か分からなかったが、次第にはっきりと見えてきたそれが見慣れた天井である事を思い出せば今までの自身の一連に、ああ、そうか。なんて呟いてしまう。

両肘で支えた体を起こし、鈍りきった身体を伸ばせばミシリと筋肉が鳴る。

そんなに寝てしまったのだろうかと思えば、まだ半刻程度しか経っていない事に安堵する。

同時に伸ばした足の指先に触れたのは木槌であり、コトンと小さな音を鳴らし転がっていくその姿を静かに眺める。
周りへと視線を巡らせれば、少し散らばった用具の姿があり伊作が戻って来る前に片付けて置かないとネチネチとした説教を食らう羽目になる。

急いで片付けるか。

伊作の説教を思い浮かべながら、俺は様々な用具に手を伸ばした。
近くに置かれる用具箱の中へと整理しながらしまっていく。コトンコトンと鳴る用具箱に、まだ寝足りないのだろう神経が揺らめく。
同時にふと思い出した夢。

それは明らかに過去と言える昔のものであり、懐かしいと言う感情が湧き上がる夢だった。


同じ村出身の海棠院と俺。アイツの母親から友達になってくれと声を掛けられた俺は、同時無言無表情の海棠院へと近づいた。

じっと自身の両手しか眺める姿しか見た事の無かった俺だが、俺が声をかけた瞬間に目を丸くして唖然とした姿は今でも脳裏に過ぎる。
いつも一人でいるアイツは呆然としていて、他の村の子供が声を掛けても見向きもしなかった。だけど、俺の言葉だけに唯一反応をくれる姿が嬉しくて、俺はできる限りの時間をアイツと一緒に居る事に費やした。

朝の挨拶も、2人で日向ぼっこも近くの境内へ遊びにいく時すら、アイツの手を引き共に行動。一緒に河辺に遊びに出掛けた際昼時のご飯を、川に居る小魚を釣り腹を満たす。

その間海棠院はじっと俺を眺めている事が多かった。俺は何だ?と聞くも、アイツは視線を戻しては『終わらない』としか言わなかった。
何が終わらないのか分からない。持ち上げられた何度も聞いたが、言葉の意味が理解出来ない同時は疑問符を浮かべるしか出来なかった。

そして、俺がこの学園に入学すると決まった時、アイツの母親が「この子には忍者としての才能がある」と、一緒に入学させた。
今思えば人見知りだろう。それが激しかったアイツを、俺は気に掛け何度も何度もくの玉長屋へと向かった事もある位だ。

そして、六年目の今、あの人見知りの海棠院はくの玉女帝と呼ばれる位の存在となった。

昔のアイツと同じ様に、俺は片付ける手を止め自身の両手を眺めた。

小さかった手を握り境内へ向かう階段、河辺へと遊びに行く中数え切れない程アイツの掌に触れた。
触れる事が出来なくなった今、あの日々の記憶が本当に懐かしいと思える。






「(終わらない)………か」













今は呟く事のなくなった台詞。
その意味が未だに分からない俺。そのうち、お互いの学年が落ち着き次第にでも聞きに行こうかと思う。












俺は、止まっていた片付けを再開した。


















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テーマ「人外ファンタジー」
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