玉響 | ナノ



会計委員会が始まったと言うのにも関わらず、神崎の姿が無い事。それは、神崎の奴の決断力のある方向音痴と言うスキルの為であろう。
神崎一人では一人迷子になるのは確実で、いつもは田村や一年生が向かいに行くらしいが今日に限って教室に居なかったらしい。話を聞けばどうやら一人で先に委員会へと向かったらしい。
何をして居るんだ!と怒った所で意味がない。田村や一年生或いは俺が探しに行っても、委員会の仕事が溜まる一方であり終わる事はない。

誰かが神崎を連れてこない限り。

イライラが募っていくのが分かる。勘の鋭い田村辺りがヒヤヒヤして居るのが目に見えていた。
クソ。後輩を怯えさせてどうする。それでも最高学年であり会計委員長か?

そんな自問をしていた時だった。



《阿呆》

と、俺へと飛んできた矢羽音にすぐさま顔を上げた。
会計室内では黙々と算盤を弾く委員達しか居らず、矢羽音を飛ばした様子は見受けられない。
一年生共はぎこちなく筆を走らせながら紙とにらみ合い、四年生の田村は慣れた手付きで淡々と算盤を弾く。

では、誰が?

キョロキョロと室内を見渡した時である、覚えのある気配が襖越しに立っていたのが分かる。数は一つ。同時に《入るぞ》と、矢羽音が飛んでくる。
スス。と開けられた襖の先には遅刻した神崎の姿があった。

まさか、神崎が?と眉間に皺を寄せれば、その隣に見知った存在が居た事に俺は驚く。


「………海棠院」


今は委員会中であり、大声を上げる訳には行かない。いつもの声量で名を呼べば《バレバレだ。もっと上手く隠せないのか?貴様は?》と鼻で笑われてしまう。

相変わらずの態度にイライラする俺だが、こいつの地雷を践み黒こげには成りたくない。
俺は、煩い。とだけ矢羽音で返せば、隣で手を繋いでいた神崎へと視線を向けた。


「神崎、お前今まで何処に居た」

「えっと……、気が付いたらくの玉長屋に居ました」


困った様に頭をかく神崎を、田村が直ぐに座る様に指示する。
神崎はすぐさま席に着き田村に分けられた決算の山に顔を歪ませ、渋々算盤を弾く姿を見送った後に海棠院へと視線を向ける。


「後輩が世話になった」

未だに襖前に立っている海棠院へと紡ぐも、海棠院は眉間に更なる皺を寄せ座る俺を見下ろしていた。


『あっそ』


それしか海棠院は言わなかった。
そして、もう用は済んだと言わんばかりに襖をピシャリと閉め、襖に映っていた影が静かに消えて行ったのを俺は見送った。


変わらずの彼女の態度にため息が出る。

彼女の性格は昔からなのだろうか?
この学園に入った当初から彼女はあんな風だったのを覚えいる。入学式で仙蔵と取っ組み合いになり、俺が止めに入った時があった。あの時は何が原因で喧嘩になったかは分からない。
しかし、お互いの顔にはひっかき傷と言ったまるで猫の様なその跡に、お前達は猫みたいな喧嘩するな!と言えば、何故か俺が2人を叩きに掛かった。

そういえばと思い出す。

学園の入学式当時、確か留三郎と話をしていたのを思い出す。
何を話していたかは知らない。

俺は己の仕事へと戻る為、手元にある決算表へと視線を落とした。














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